20 3人寄れば姦(かしま)しい
「は~」
「どうしたんですか、先輩?」
付与魔法ギルドレスティ支部。
昼休み中の職員控室で溜息をついた先輩職員のローリエにキャメリアは思わず声を掛けた。
「ねぇ、あなた昨日来たユーマさんのことどう思う?」
「えっ、もしかして先輩! ユーマさんに一目ぼれですか? 氷の女もついに雪解けですか!?」
「きゃー」というほどの高いテンションとなった後輩にローリエはジトッとした半眼で睨みつけた。
「せっ、先輩……じょっ、冗談ですから! その目はやめて下さい。乙女がそんなヒトゴロシみたいな目をしちゃダメ……あ、あ、い、た、た、た……ギブ! ギブですから。アイアンクローはダメですってば……」
ローリエは涙目で自分を見つめるキャメリアを一瞥すると彼女の顔から右手を放した。
「まったく、あなたってばそんな減らず口ばっかり。どうしてうちの男どもはこんなのがいいんだか……」
「ふふん♪ それが女子力ってものですよ、先輩!」
「……むかつく」
「まあ、それはそれとしてユーマさんがどうしたんですか?」
「いや、あの人の仕事がちょっと異常過ぎてね。なんか理解が追い付かなくって……」
「でも昨日の勝負を見ていたんですからそのくらい普通でしょう?」
単純なキャメリアにローリエは脱力した。
「あなたね~、昨日のは勝負だしアイテムも魔力回復ポーションも使い放題だったわけでしょう? それに一発勝負ってことで1日だけだったら無理しようと思えば中級付与師でも上級一歩手前のレベルであればできなくはないわよ」
キャメリアはお昼ごはんを食べながら2、3度頷きローリエに続きを促した。
「でも今日見たユーマさんの仕事のペースは昨日の勝負のときとほとんど同じなのにアイテムを使っている様子もない。それどころか全精力をつぎ込んでいるといった気配も全くないのよ」
ローリエからみた勇馬は全くの自然体であり、本当にさっきまで大量の作業をこなしていたのか疑いたくなる様子だった。
大量の魔力を使い、神経をすり減らす慎重な作業をすれば大抵の付与師は疲労困憊となる。
ローリエたち付与魔法ギルドレスティ支部の職員は特に最近そんな光景を数多く目にしてきた。
それとの対比でより一層勇馬の異常さを際立って感じたのだ。
「う~ん……まあ、いいんじゃないですか? きっと東洋の秘術ってやつですよ! ユーマさんどうみてもこの辺の出身じゃないし。何か特殊なやつなんですよ、きっと」
ローリエはお気楽なキャメリアに頭痛がしかかったが確かにそんなことに気を揉んでもしょうがないことだ。
ローリエは幸せそうにお昼ごはんを食べ続けるキャメリアを眺めながらそう思った。
「でも先輩、ほんとはユーマさんのこと気に入ってるんでしょう? ユーマさんってすごい童顔じゃないですか? ほら、先輩ってショタ……あ、い、た、た、た……だからアイアンクローはダメですってば~」
「うるさい! それよりあなたこそどうなのよ。この前、ケインさんからラブレターもらったって言ってなかった?」
「あ~、私はそんな子どもなんか相手にしませんから」
「子どもって……確かケインさん20歳過ぎてなかった? 私たちより年上よ……」
「え~でもやっぱり年齢ゆえの渋みというか落ち着きというかそういうものが欲しいじゃないですか?」
「相変わらずあなたオジサン趣味なのね~。じゃあ、例えばトーマスさんとかだったら?」
「いいですね! 元々いいな~とは思ってましたけど昨日助けていただいて好感度マックスですよ! もうキュンキュンきちゃいました!」
「言っとくけどトーマスさん、奥さんもお子さんもいるからね!」
「でも現地づ「絶対ダメだからね!」
最後まで言い切ることなくローリエに駄目出しされてキャメリアは『けちー』という目でそう抗議した。
「先輩! そんな固いこと言ってると誰かさんみたいに行き遅れちゃいますよ?」
「誰かさん?」
そのときローリエは控え室に誰かが入ってくるのに気が付きそれが誰だかわかると背筋を凍らせた。
しかしキャメリアは話に夢中でそれに気付かない。
「も~、ほらっ、わかっているくせに! うちにいるじゃないですか? 1人いい歳して結婚できていない人が」
「へ~それって誰のことかしら」
「それは勿論……」
キャメリアは突然後ろから声を掛けられ何も考えずに振り返りそして固まった。
キャメリアの目の前には腕組みをした付与魔法ギルドレスティ支部最古参の女性職員マイヤー女史(独身)が仁王立ちしてキャメリアを見下ろしていた。
「さーて、私は受付をしようかしら」
危険を察知したローリエがそそくさと昼食の片づけをして席を立った。
「わっ、わたしも……ぐえっ」
ローリエに続いてその場から逃げようとしたキャメリアだったが襟首をマイヤーにつかまれ乙女が出してはいけないカエルを潰したような声を出した。
「キャメリアさん……あなたにはお話があります」
控え室にマイヤーの冷え冷えとした声がした直後、キャメリアの悲鳴とも何ともつかない声が部屋中に響き渡った。
【知らなくてもいい大人の単語】
現地妻:出先・旅先でのみ出会う愛人のこと。「現地嫁」とも。
(出典:ニコニコ大百科)




