表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/226

20 3人寄れば姦(かしま)しい

「は~」


「どうしたんですか、先輩?」



 付与魔法ギルドレスティ支部。


 昼休み中の職員控室で溜息をついた先輩職員のローリエにキャメリアは思わず声を掛けた。


「ねぇ、あなた昨日来たユーマさんのことどう思う?」


「えっ、もしかして先輩! ユーマさんに一目ぼれですか? 氷の女もついに雪解けですか!?」


「きゃー」というほどの高いテンションとなった後輩にローリエはジトッとした半眼で睨みつけた。


「せっ、先輩……じょっ、冗談ですから! その目はやめて下さい。乙女がそんなヒトゴロシみたいな目をしちゃダメ……あ、あ、い、た、た、た……ギブ! ギブですから。アイアンクローはダメですってば……」


 ローリエは涙目で自分を見つめるキャメリアを一瞥すると彼女の顔から右手を放した。


「まったく、あなたってばそんな減らず口ばっかり。どうしてうちの男どもはこんなのがいいんだか……」


「ふふん♪ それが女子力ってものですよ、先輩!」


「……むかつく」


「まあ、それはそれとしてユーマさんがどうしたんですか?」


「いや、あの人の仕事がちょっと異常過ぎてね。なんか理解が追い付かなくって……」


「でも昨日の勝負を見ていたんですからそのくらい普通でしょう?」


 単純なキャメリアにローリエは脱力した。


「あなたね~、昨日のは勝負だしアイテムも魔力回復ポーションも使い放題だったわけでしょう? それに一発勝負ってことで1日だけだったら無理しようと思えば中級付与師でも上級一歩手前のレベルであればできなくはないわよ」


 キャメリアはお昼ごはんを食べながら2、3度頷きローリエに続きを促した。


「でも今日見たユーマさんの仕事のペースは昨日の勝負のときとほとんど同じなのにアイテムを使っている様子もない。それどころか全精力をつぎ込んでいるといった気配も全くないのよ」


 ローリエからみた勇馬は全くの自然体であり、本当にさっきまで大量の作業をこなしていたのか疑いたくなる様子だった。

 大量の魔力を使い、神経をすり減らす慎重な作業をすれば大抵の付与師は疲労困憊となる。


 ローリエたち付与魔法ギルドレスティ支部の職員は特に最近そんな光景を数多く目にしてきた。


 それとの対比でより一層勇馬の異常さを際立って感じたのだ。


「う~ん……まあ、いいんじゃないですか? きっと東洋の秘術ってやつですよ! ユーマさんどうみてもこの辺の出身じゃないし。何か特殊なやつなんですよ、きっと」


 ローリエはお気楽なキャメリアに頭痛がしかかったが確かにそんなことに気を揉んでもしょうがないことだ。

 ローリエは幸せそうにお昼ごはんを食べ続けるキャメリアを眺めながらそう思った。


「でも先輩、ほんとはユーマさんのこと気に入ってるんでしょう? ユーマさんってすごい童顔じゃないですか? ほら、先輩ってショタ……あ、い、た、た、た……だからアイアンクローはダメですってば~」


「うるさい! それよりあなたこそどうなのよ。この前、ケインさんからラブレターもらったって言ってなかった?」


「あ~、私はそんな子どもなんか相手にしませんから」 


「子どもって……確かケインさん20歳過ぎてなかった? 私たちより年上よ……」


「え~でもやっぱり年齢ゆえの渋みというか落ち着きというかそういうものが欲しいじゃないですか?」


「相変わらずあなたオジサン趣味なのね~。じゃあ、例えばトーマスさんとかだったら?」


「いいですね! 元々いいな~とは思ってましたけど昨日助けていただいて好感度マックスですよ! もうキュンキュンきちゃいました!」


「言っとくけどトーマスさん、奥さんもお子さんもいるからね!」


「でも現地づ「絶対ダメだからね!」



 最後まで言い切ることなくローリエに駄目出しされてキャメリアは『けちー』という目でそう抗議した。


「先輩! そんな固いこと言ってると誰かさんみたいに行き遅れちゃいますよ?」


「誰かさん?」


 そのときローリエは控え室に誰かが入ってくるのに気が付きそれが誰だかわかると背筋を凍らせた。


 しかしキャメリアは話に夢中でそれに気付かない。


「も~、ほらっ、わかっているくせに! うちにいるじゃないですか? 1人いい歳して結婚できていない人が」


「へ~それって誰のことかしら」


「それは勿論……」


 キャメリアは突然後ろから声を掛けられ何も考えずに振り返りそして固まった。


 キャメリアの目の前には腕組みをした付与魔法ギルドレスティ支部最古参の女性職員マイヤー女史(独身)が仁王立ちしてキャメリアを見下ろしていた。



「さーて、私は受付をしようかしら」


 危険を察知したローリエがそそくさと昼食の片づけをして席を立った。


「わっ、わたしも……ぐえっ」


 ローリエに続いてその場から逃げようとしたキャメリアだったが襟首をマイヤーにつかまれ乙女が出してはいけないカエルを潰したような声を出した。


「キャメリアさん……あなたにはお話があります」



 控え室にマイヤーの冷え冷えとした声がした直後、キャメリアの悲鳴とも何ともつかない声が部屋中に響き渡った。


【知らなくてもいい大人の単語】


 現地妻げんちづま:出先・旅先でのみ出会う愛人のこと。「現地嫁」とも。


(出典:ニコニコ大百科)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ