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17 決着

 

 午後1時を少し過ぎたころ、サギトは昼食を兼ねた休憩をとることにした。


 今回勝負をすることになった2人には昼食が用意されることになっている。


 サギトは昼食場所兼休憩場所として指定されたギルド1階のホールにやってきた。


 そこには既に先客がいた。

 サギトの勝負の相手である勇馬である。


 勇馬は既に昼食を食べ終えたのかゆっくりとくつろいでいる。

 今は紅茶を飲みながらギルドから出されたケーキを食べている。


「やけに余裕じゃないか。まさか最初から勝負を諦めているのか? それとも、もう終わったとでも言うんじゃないだろうな?」


 サギトはあり得ないことを敢えて口にして皮肉たっぷりに勇馬を牽制した。


「ええ、こちらはもう終わっていますので」


 サギトの皮肉を目の前の男はこともなげに肯定した。


 勇馬は自らの言葉が真実であることを伝えるため付与を終えた武具が積まれた場所を指差した。


「ははっ……何を言って……」


 勇馬が指差した場所に視線を移したサギトは勝負開始時にはなかった武具の山に言葉を失った。


「そっ、そんな馬鹿な!」


 サギトがうろたえるような声で叫ぶとちょうど2階からトーマスがマイヤーを伴い降りてくるところだった。


「トーマスさん! あいつが終わったというのは本当なんですか!」


 すごい剣幕で迫ってきたサギトの勢いにトーマスは一瞬たじろいだものの強く頷き返す。


「本当だ。ユーマくんは既に作業を終えている」


 トーマスの声を聞いたサギトは目を見開きぽかんと口をひらいたまま固まってしまった。

 そしてゆっくりとトーマスの後ろにいたマイヤーに視線を向けるとマイヤーも無言で頷きトーマスの言葉を暗に肯定した。


「そんな馬鹿な……」


 サギトはそうつぶやくと力なくその場に崩れ落ちた。



 しばらく経ってようやく落ち着きを取り戻したサギトを勝者でもある勇馬も手伝うことになった。

 元々は期限が迫っていた受注案件であり早く終えるに越したことはなかった。


「午前中にもかなりのペースでやってもらったけど大丈夫かい?」

「はい、まあ今のところは大丈夫そうです」


 勇馬はメルミドにいたときから今回くらいの量の作業は平然とこなしていた。

 そのためトーマスは本音では特に心配していない。

 いわゆる様式美というやつだ。


「じゃあ作業に戻りますので」


 勇馬はそう告げると再び作業部屋へと入っていった。




 勇馬と別れたトーマスは再び2階にあるギルドマスターの執務室・マスタールームに戻って来た。そして革張りの椅子に腰を掛け重厚な黒檀色の机でデスクワークを開始した。


「今日ので何とか当面の危機は回避できるか……」


 トーマスはそうつぶやきながら受注票の束に目を走らせ机の上に置いた。



 ――コン、コン



「どうぞ」


 控え目にノックされたドアに視線を送り、トーマスはそう声を掛けた。


「失礼致します」


 マイヤーは静かにドアの開け閉めをしてマスタールームに入るとトーマスの前に紅茶の入ったカップを給仕した。


「ありがとう」


 トーマスは一言そう言ってカップを口に運び一口紅茶を口に含んだ。


「ユーマさんには大変驚かされました」


 お盆を両手で抱えてマイヤーはそう嘆息した。


「言ったでしょう? 彼はうちの秘密兵器だと」

「だとしてもあれはそんなレベルでは……」

「まあいいじゃありませんか。これで取り敢えずは危険水域からは抜け出せたはずです」


 トーマスは今日ギルドに来て直ぐ目の当りにした光景を思い出しながらそう口にした。


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