16 勝負開始
サギトは付与魔法ギルドレスティ支部の若手付与師である。
成人する前から師匠について修行をし、成人したころには初級付与師となった。
そして、その後はみるみるうちに頭角を現し中級にまで昇格した。
付与師となって10年。
同年代の中では群を抜いた技術と魔力量を誇っている。
若手ナンバーワンと言われてきた彼もそろそろ中堅といわれるキャリアに差し掛かっている。
その先には副ギルドマスター、そしてギルドマスターの地位があることは彼自身もそして周囲も認識していた。
そんな中、降って湧いたようなレスティ支部のギルドマスター・副ギルドマスターの辞職。ベテラン付与師も同じ様にギルドを去ったことでギルドは混乱に陥っていた。
しかし、サギトはその様な状況にありながらもチャンスを感じていた。
あと10年は手が届かなかったかもしれないギルド幹部への道が一足飛びに開けるかもしれない。
そんな期待を抱きつつ今日の日を迎えたのである。
そんな彼の立場からすれば突然現れたどこの馬の骨かもわからない若造にその地位を奪われることは到底我慢できないことであった。
サギトは『魔力抜き』の作業に使われる魔法陣が描かれた紙を用意するとその上に武具を並べ『魔力抜き』を始めた。
中級ともなれば普通はこの作業に魔法陣を使うことはない。
自身の魔力を節約したいときや急ぎの仕事の場合に使う程度である。
魔力抜き用の魔法陣は魔道具屋で購入することができるが得られる報酬を考えると決して安いものではない。
今回の勝負ではアイテム利用が無制限で認められているためいつもは節約志向のサギトも大盤振る舞いで使っている。
今日は時間との勝負であるため、自身の魔力の出し惜しみもしない。
魔法陣を使って若かりしころに習った技法に則った『魔力抜き』の作業を効率良く行っていく。
サギトは魔法陣だけだと5分はかかる魔力抜きの作業を自身の魔力をも利用してわずかな時間で終わらせると次の作業へと移った。
そしてこれからが本番である。
改めて依頼書に書かれた施すべき付与の内容を確認するとサギトの口から溜息が漏れた。
「半分がダブルの付与でしかも内容がほぼマックスか……」
今回試験で施すことになる付与の内容は若手実力者といわれるサギトをして嘆息させるものであった。
個数自体が多くても一種類だけの付与、すなわち単純付与でレベルも低いものであれば数をこなすことは比較的容易である。
しかし、今回の課題は1つ1つが多大な魔力を要するレベルのものであったり、技術的にどうしても時間を掛けざるを得ない内容だったりというものだった。
幸い、魔力回復ポーションの使用も認められるということなので魔力切れを心配せずに作業はできるものの、そうまでしてもこれを短時間でこなすことはサギトをしてどうにかというものであった。
サギトは気力が充実している早いうちに魔力よりも技術・精神力を使う難易度の高い案件から手を付けた。
二重付与は魔力もその分勿論消費するがそれよりも複数の効果を同時に与えるというそのバランスこそが肝であり、集中力が落ちれば失敗することも十分に考えられた。
サギトは2時間かけて付与を施していき、約半分の武具に付与を終えた。




