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15 便乗

「トーマスさん。俺は納得できません!」



 そう叫んだ声の主はサギトという名前の20代の男だ。


 彼はこのギルドで10年以上付与師をしており、若手ナンバーワンの呼び声も高い中級付与師である。


 サギトはトーマスが臨時のギルドマスターとなることには心から納得している。

 また、今回ギルドマスターを補佐する副ギルドマスターをギルドマスターとなるトーマスが気心の知れたメルミドの付与師から選ぶことも仕方がないと思っている。

 今回の事態がレスティ支部の失態に端を発するものであり、自分たちは助けてもらう立場にあるからである。


 しかしその一方で副ギルドマスターの地位につく者は最低でも自分以上のレベルでなければという複雑な思いも抱いていた。

 そんな中で目の前に現れた勇馬は少なくとも見た目ではサギトを納得させるものではなかった。


「サギトさん! 失礼ですよ!」

「サギトの言うとおりだ!」

「サブマスの力があるのかよ」

「俺がやった方がいいんじゃないか?」


 マイヤーはサギトをたしなめようとするがサギトに同調する声がそこかしこからあがってきた。

 収拾できない状況にマイヤーはうろたえ、申し訳なさそうにトーマスの方にちらりと視線を送った。



 ――パン、パン、パン



 ホールに手を鳴らす音が3度響くと騒ぎはピタリと収まった。


 ホール内の視線はその音の(ぬしであるトーマスに集中した。


「ここは1つ勝負といきましょう」


 トーマスは、にこりと微笑みそう宣言した。





 トーマスがレスティ支部の付与師たちの誤解を解くことは簡単なことだ。


 しかし、勇馬の力を知らしめるいい機会だとも思いそれに便乗することにした。




 場所は移ってギルド1階にある作業エリア。


 2つの作業部屋には次々と台車に載せられた付与を待つ武具が運び込まれる。



「武具に指定の付与をしてもらいます。施す付与の内容が同じ条件となるようそれぞれに配点しています。各人に配点した武具の個数は100。アイテムの使用は無制限。早く指定どおりの付与ができた方が勝ちです」


 トーマスの説明に頷く勇馬。固い表情で相対するは勇馬が副ギルドマスターに就任すると勘違いし異論を唱えたサギトだ。


 この勝負の準備中、勇馬はトーマスからある指示を受けていた。



『圧倒的な力の差を見せつけて勝って下さいね』



 トーマスは事前にマイヤーからレスティ支部には多大な不安が渦巻いており、トーマス1人が来たところで今の惨状を完全に解消できるのかという心配の声が出ていることを聞いていた。


 そういった弱り目なところによそから来た実力が未知数な若造が一足飛びに副ギルドマスターになるなどと言われれば混乱に拍車がかかるだろう。


 そこでトーマスは、勇馬がその地位に値するほどの実力者であることを知らしめ、逆に安心を与えることにしたのだ。



(あなたには恨みはないが本気でいかせてもらいますよ)



 勇馬がサギトを一瞥いちべつするとサギトは勇馬の視線に気付き逆に睨み返してきた。



「それでは始め!」



 時刻は午前11時ちょうど。


 トーマスの合図を皮切りに2人が同時に作業部屋へと掛け込んだ。


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