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13 付与魔法ギルド・レスティ支部

「……ううっ、昨日はちょっと飲み過ぎたかな……」



 久しぶりにお酒を飲んだ勇馬はそう口にしながらベッドから起きた。

 今日から早速仕事であることは分かっていたためあまり深酒をしたつもりはなかったのだがその場の勢いに呑まれてちょっと飲み過ぎてしまったようだ。


主様あるじさま、おはようございます」


 アイリスは既に起きていて着替えを済ませている。

 主人である勇馬が起きるのを待っていたようだ。

 2人は朝食を食べるため1階の食堂へと降りた。


「おはようございます」


 勇馬が挨拶したところ既に他の3人は朝食を食べ始めていた。


「おはよう、ユーマくん」

「ユーマさんおはようございます」

「ふーふふん、ふふふーふふいまふ」

「シェーラ、食べ終わってからでいいから……」


 勇馬はそう返すと空いている席に座った。アイリスは勇馬が座るのを確認してからその隣の空いている席へと座った。


 食事を終えるとまずは獣人の2人が宿を出る。


「みなさんお元気で!」


「また会おうね!」


 2人はそう言って宿を出ると一路冒険者ギルドへ向かった。



「じゃあ私たちもそろそろ行こうか?」


 トーマスの言葉にうなずき勇馬も宿を出発した。

 今日は初日ということもあってアイリスは宿でお留守番だ。本格的に作業を開始するであろう明日からはこれまでのように勇馬の作業の手伝いをしてもらうことになっている。




「ここがレスティ支部か……」


 メルミドのギルドも決して小さくはないと思うがやはり辺境伯領の領都にあるだけあってレスティ支部の建物は立派であった。


「さあ、入るよ」


 涼しい顔をしてギルドの建物に入るトーマスに勇馬も続いて入った。

 入ってすぐはロビーとなっており、その奥に受付のカウンターがある。この構造はメルミドの支部と同じ造りである。

 受付カウンターでは1人の受付嬢が客に対応している。

 しかし、勇馬はどこか剣呑な雰囲気を感じた。



 ――バーン!



「いったいいつまで待たせるんだよ! 昨日の昼が納期のはずだろう!?」


 客である冒険者の男がカウンターを右手の手のひらで叩きつけると口早に怒鳴り散らした。


「もっ、申し訳ございません! きょっ、今日中にはお渡しできると思いますので今少しお時間を……」


「昨日も同じこと言っただろう? 信用できねぇよ。今すぐやれよ、今すぐ!」


「まあまあお客さん、落ち着いて落ち着いて」


 一触即発の空気の中トーマスは2人の間に割って入った。


「なんだぁ、おっさん。今俺が話してるんだ。邪魔すんなよ!」


「まあまあ、どうやら納期に間に合わなかったご様子。直ぐに対応しますので」


「なんだぁ? お前がやってくれんのかよ? いいぜ、お前がやってくれんなら何の文句もねぇや」


 その言葉にトーマスは受付嬢に目配せをする。


 トーマスのことを以前から知っていた受付嬢は慌ててバックヤードに行くと鉄の剣と鉄の盾を運んできた。



「こちらがあなたの依頼品に間違いありませんか?」


「ああ、間違いねえ。俺がこの街で買ったばかりの新品の鉄の剣と盾だ」


「依頼書を」


 トーマスは受付嬢にだけ聞こえるような声をぽつりと口に出すと眼の前の男から視線を動かさないまま、左手を受付嬢の前に差し出した。

 受付嬢はすぐにトーマスの手にこの男からの依頼内容が書かれている依頼書を渡した。


「ふむ、鉄の剣【強度1・5倍】に盾は【重量軽減20%】でどっちも1週間か」


 トーマスは依頼内容を確認すると小声で何かをつぶやき鉄の剣に手をかざす。

 その刹那、トーマスの手から光の粒子がほとばしり鉄の剣を包み込んだ。


「さて、次は盾か」


 トーマスは同じことを鉄の盾にも行い2つの武具が光りに包まれる。

 しばらく経って光の粒子が完全に消えるとトーマスは鑑定スキルにより付与が施されていることを確認すると受付嬢にそれらを委ねた。



「あとはお願いね」


 笑みを浮かべたトーマスの言葉に我に返った受付嬢はすぐさま再起動し、男に武具を引き渡した。


 客の男が帰ると受付嬢は気が抜けたのかカウンターにもたれかかった。


「つっ、疲れた……」


 成人しているとはいえ十代そこらの細腕の女性が、いかつい冒険者の男にドスの効いた声で迫られれば気疲れもするだろう。


「いやはや大変だったね」


「ト~マスさ~ん……お待ちしてましたよ~」


 受付嬢の今にも泣き出しそうな声が受付に響いた。


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