12 レスティ到着
「ここがレスティか」
6日間にも渡る旅を終えてようやくリートリア辺境伯領の領都であるレスティへとたどり着いた。
辺境という言葉どおり、この領地はアミュール王国の東の端にあり隣国のラムダ公国と国境を接している。
そのため戦時を想定して領都はメルミドの城壁よりも立派な造りをしている。勇馬の入市税は付与魔法ギルドの経費扱いでトーマスが代わりに支払った。
「今日はもう遅いから付与魔法ギルドへは明日行くことにしようか」
本来の予定だと今日の夕方前には着く予定であり、レスティ支部に挨拶に行く予定になっていた。
しかし魔物の襲撃に遭ったために到着が予定よりも遅れてしまった。
入市手続の時間にぎりぎり間に合ったものの手続が終わったころには日はとっぷりと暮れている。
乗合馬車を降りると行商人であるペドロは知り合いの商人のところにやっかいになると言って一足先にその場を立ち去った。護衛を買って出てくれた『暁に咲く花』のメンバーたちも定宿にしている宿に泊まるということでここでお別れとなった。
「じゃあ、私たちも行こうか」
トーマスはこれまで仕事で何度かレスティに来たことがあるためこの街が初めての勇馬たちは彼について行くことになっている。
「あっ、あのっ、私たちも一緒に行ってもいいですか?」
初めてこの街に来た猫獣人の冒険者であるケローネが勇馬たちにそう声を掛けた。
「それは構わないけど私たちが泊まる宿は中ランクになるよ。それでもいいかい?」
「いっ、一泊であれば魔石の臨時収入もあったので大丈夫です。これからのことは明日考えます」
そういうやりとりを経て5人は一緒にトーマスの勧める宿へと向かった。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「個室を1つとツインを1つ頼めるかな?」
「ボクたちは2人部屋をお願いします」
トーマスとシェーラが受付の男性従業員にそう答えそれぞれ部屋をとることができた。
「「「「「旅の無事とお互いの今後の活躍を祈ってかんぱ~い!」」」」」
宿の部屋に荷物を置き、勇馬たち5人は1階にある食堂でささやかながら旅を締めくくる慰労会を行うことになった。
「魔物にはびっくりしましたけど無事に着けてよかったですね」
「まあ、確かにあの魔物の数には驚いたね。私も何度かこの街道は通っているし、これまで話も聞いていたけどあの数はちょっと普通じゃなかったね~」
勇馬の言葉にトーマスも頷きそう言った。
この世界に来たばかりの勇馬はピンとこないことだが魔物が跋扈するこの世界の住人とはいえども今回のことは予想外のことだ。
そもそも今回のことがよくある話であれば商隊も護衛の数をもっと増やしていただろうし、乗合馬車も自前の冒険者を雇って運行しているだろう。
それだけ今回のことはイレギュラーな出来事であった。
「シェーラたちは明日どうするんだ?」
「まずは冒険者ギルドへ行ってみようと思います。どんな依頼があるのかもわかりませんし、どれだけクエストを受けることができそうかで宿探しも変わりますし」
Eランク冒険者でありメルミドの街ではあまりクエストを受注できなかった2人にはそこまでの経済的余裕はない。
「じゃあ、明日で取り敢えずはお別れだな」
「うう……せっかく仲良くなれたのにさびしいです……」
「そうですね。私も歳が近い友達ができて楽しかったです」
ネコ耳がふにゃりと伏せてしまったケローネとアイリスはそう言ってお互いを抱きしめ合った。
「まあまあ、出会いもあれば別れもありますよ。今日はまあ飲みましょう!」
ケローネたちはまだ成人していないがこの世界では成人していなくてもお酒を飲むことは禁止されていないしとがめる者もいない。
トーマスの言葉を合図に5人は再び杯を重ねた。




