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10 撃退

 

 ハイゴブリンとの戦闘はハイゴブリンの数が多く膠着状態となっていた。



 パーシーたち護衛冒険者は依頼主のホフマンの側を離れることはできず、一方、ハイゴブリンたちは態勢を立て直すために距離をとっている。もっとも、エクレールの範囲魔法攻撃を警戒してか一か所には固まらずに全体を囲むように陣をとった。



「完全に囲まれたな……」



パーシーは思考を巡らせて現状を打開する方策を探していく。自分たちだけであれば馬に乗って突っ切ることができるが荷物を満載した商隊の足では魔物たちをまくことはできない。かといって各個撃破しようとすれば守りが手薄になる。

何は置いても持ち駒が足りなかった。



(あと3人、いや2人でもいれば……)



 パーシーはそう思うもののないものはどうしようもない。

 このままこう着状態が続くかと思われたとき、原野のはるか先から砂煙とともにやってくる一団が目に入った。



(何だ? 新たな魔物か?)



 目の前のハイゴブリンから目を離せないためはっきりと凝視することができないそれは近づくに連れてだんだんとその姿を露わにしていく。どうやら魔物ではなく馬に乗った人間のようだ。



(まだ油断はできない、ハイエナ盗賊かもしれない)



 ハイエナ盗賊とはトラブルの事後を狙う盗賊のことである。


魔物に襲われた旅人や商隊が死に絶えもしくは瀕死のところを狙って残されたものを強奪する連中である。


最も効率がいいやり方といえばそうなのかもしれないが、その悪辣さからこの世界でも忌避されている連中だ。

 素性のわからない者たちが近づいてくるに連れ、パーシーは緊張を高めた。しかし、次に掛けられた言葉でこれまでの緊張が一気にほどけた。



「こちらはCランクの冒険者パーティーだ! 様子を見るに手助けすることもやぶさかではないがどうか?」

「……申し訳ない。加勢を頼む」


 鎧に身を包み馬に乗って近づいてきた男は通りすがりの冒険者パーティーであった。

通りすがりの冒険者パーティーのメンバーは全部で5人。パーシーたちと同じくCランクの冒険者パーティーであった。

 加勢を得たパーシーたちは自身を包囲していたハイゴブリンたちを挟み打ちにし、とうとう殲滅させることができた。



「お客さん。魔物は退治できました。もう大丈夫です。それからちょっとここで休憩となります」


 遠くから戦闘が終わったのを確認して戻ってきた乗合馬車の御者からそう言われ、勇馬たちは安心して体を起こし、馬車の外へと出た。

するとさっきまで戦っていたのであろうシェーラとケローネが勇馬に近づいてきた。


「ユーマさん、安心して下さい。魔物はボクたちがやっつけました!」


 シェーラが得意そうに薄い胸を張った。


「とはいっても2人で1体やっつけただけだけどね」


「でも2人ともありがとう。おかげで助かったよ」


 勇馬はそう答えると謙遜するケローネの頭を撫でた。

 ケローネはふにゃりと緩んだ表情をして嫌がることなく撫でられ続けた。


「あっ、ずるい! ボクもボクも」


 1週間近く行動を共にしたことで勇馬は随分とシェーラたちになつかれたものである。思わずケローネの頭を撫でてしまった勇馬は一瞬「やり過ぎたか」と心配したものの逆の反応をされたため、シェーラにも同じ様に頭を撫でてやった。


 その様子をアイリスはもの欲しそうな表情で眺めていたのだがそのことに気付いた者は誰もいなかった。


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