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8 異世界の洗礼

 

 2日目以降、勇馬たちの移動は概ね順調に進んだ。


 2日目と4日目には途中にあった村で休むことができた。


 その場合は見張り番をする必要はないし、ベッドでゆっくりと眠ることができたためしっかりと休息をとることができた。



 そして6日目。


 思いのほか行程が順調であったことから予定よりも早く今日中にはレスティに到着しそうだという話であった。

 昼食を食べ終え、レスティまであと半日という場所でそれは起こった。



「魔物の群れだ! 迎撃態勢準備!」


 護衛として商隊の先頭を進んでいた冒険者のガオンが馬上で叫んだ。


 他の護衛冒険者たちに緊張が走る。


 商隊は速度を落とし、護衛パーティーのリーダーであるパーシーが馬を進めて先頭に踊り出るとガオンと並んだ。


「何の魔物だ? 数は?」


 矢継ぎ早に質問するも未だ全体像がはっきりせずガオンは答えることができない。


 魔物との距離が近づきようやく全体像がはっきりしてくる。


「ゴブリンか……しかしあの数は……」


 パーシーの200メートルほど先には数十体のゴブリンの群れである。


「普通に対応したのでは抜かれる可能性が高い。エクレール! 大規模魔法で一掃できないか?」


「わかったわ。射程に入ったところで一発やってみるけどこれだけ開けている場所だとどこまで減らせるかわからないわね。その辺は覚悟しておいて」


 護衛冒険者たちは護衛対象の馬車に止まるよう指示を出す。


 そして自らは馬を降り,ゴブリンたちへの迎撃態勢をとった。


 エクレールはリーダーのパーシーの指示通り後ろに下がって大規模魔法の詠唱を始める。

 Bランク冒険者の彼女は低レベルの魔法であれば無詠唱で魔法を発動できるが広範囲魔法を確実かつ効果的に発動させるのであれば詠唱をした方が確実である。


 ついにゴブリンの群れがあと50メートルほどに迫ってきた。


「サムア・エクスプロージョン!」


 詠唱を終えたエクレールがそう叫ぶと杖から炎の塊がゴブリンの群れに放たれる。



 ――ドゴォォォーン



 着弾と同時に大きな破裂音が辺りに響き、周囲に爆風と炎が拡散する。疾走していたゴブリンたちを爆風による土煙が包み込んだ。


「やったか!?」


「いや、まだだ! 来るぞ!」


 ガオンの言葉をパーシーが否定し、気を抜かないよう注意を促した。


 もうもうと巻き上がる土煙の中からはまだ十体以上のゴブリンたちが飛び出し、パーシーたちに迫ってくる。


「しぶとい連中ねー!」


 エクレールはさらに魔法を放ち、後方に控えていた弓使いのライラも加わり追加の迎撃を行う。

 しかし数体うち倒せただけでまだ十体近くのゴブリンが残っている。


「来るぞ!」


 パーシーは左手に小盾を構え右手に剣を持ち直し疾走してきたゴブリンと対峙する。


 パーシーは対峙したゴブリンの攻撃を小盾で受けた瞬間肝を冷やした。


 ゴブリンはEランクの魔物でありCランクパーティーである自分たちからすれば本来手こずる相手ではない。

 しかし、目の前のゴブリンは普通のゴブリンではなかった。


「こいつらハイゴブリンか!」


 上段から振り下ろされる棍棒を小盾でいなしながらパーシーは叫んだ。


 ゴブリンの上位種とされ、見た目はゴブリンとはほとんど見分けがつかない。

 ゴブリン以上の能力を持ち、初心者冒険者がただのゴブリンかと思って油断し、結果的に返り討ちに遭うことは枚挙にいとまがない。そのため『初心者殺し』の異名を持っており、中ランク冒険者といえども気は抜けない。


 ハイゴブリンは単体ではDランクの魔物であるものの数が多くなり群れを形成すると討伐レベルはCランクとなる。Cランクパーティーからすれば同格の相手であり決して油断できない相手だ。

 パーシーたちはパーティー一丸となって対応するもハイゴブリンの数が多く全てに対応することができない。



「しまった! 抜かれた!」


 パーシーたち冒険者を避けて一体のハイゴブリンがホフマンの乗る商隊馬車に疾走する。


 その刹那、先頭の商隊馬車の中から1人の男が降り立ち、迫ってきたハイゴブリンを一刀のもとに切り捨てた。


「こっちは俺に任せろ!」


 男の名前はレックス。

 護衛冒険者パーティーの最後の1人である。

 今日は彼が依頼主であるホフマンの傍付として控えておりパーシーたちは雇い主に危険が及ばずほっと胸をなで下ろした。


 レックスの声を聞き他のメンバーたちは目の前の敵に集中する。


 すると手ごわい護衛冒険者を避けたハイゴブリン数体が隊列後方の勇馬たちの乗る乗合馬車に目標を変えて迫ってきた。



「お客さん、魔物だ! 魔物が来た!」



 乗合馬車の御者の男が幌の入り口から勇馬たちにそう警告した。


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