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7 役得

 見張り番の仕事は外周の見張りとたき火の番である。



 それを交互に行うことになっており、外周の見張りには冒険者が最低でも1人は同行することになっている。


 勇馬と共に外周の見張りに同行する護衛冒険者は魔法使いの女性だ。


 名前はエクレールといい、釣り目がちで意思の強そうな顔立ちをしながらも少女のようなあどけなさも残る色白の美人だ。

 髪型は赤茶色の髪が肩口にかかる程度の長さをしている。


 年齢は18歳で、紺色のとんがり帽子をかぶり、右手には木製の長いロッド。


 そして特筆するべきはその豊満な身体である。


 とはいえ全体として太っているのではなく、出るところは出てひっこむべきところはひっこむというメリハリのある身体つきをしている。


 そんな卑猥な身体つきをしながら見る者を挑発するかのように濃紺色の薄手の魔女服は肩が剥き出しで胸元が大きく開いたドレスのようなつくりだ。

 流石に夜は冷えるからか同系色のケープを肩に掛けてはいるものの返って開かれた胸元が強調されていた。


 勇馬とエクレールは野営開始時の顔合わせで既にお互い自己紹介を終えている。その場でお互い同じくらいの年齢ということを認識している。



 勇馬とエクレールは外周の見張りを終えると交代のためたき火のある拠点へと戻ってきた。


「さっきからそわそわしてどうしたの?」


 たき火を挟んで勇馬と向かい合って座っていたエクレールがそう声を掛けた。


 勇馬たちと交代で残りの3人が今は外周の見張りに出ているため、今この場所には2人だけだ。


 あまり女性に免疫のない勇馬は妖艶ようえんなエクレールの姿を凝視できず、視線をあちこちに彷徨さまよわせていた。

 アイリスを奴隷として買ったものの未だに勇馬はアイリスに手を出しておらず女性への免疫はほぼないと言っていい。


「まあ、初めての野営だから緊張するのもわかるけど、わたしたちがいるんだからそんなに緊張しなくてもいいわよ」


「いえ、そういうわけではないんですけど……」


 尻すぼみに勇馬はそういうとエクレールに正面から向きあった。

 しかし、男のさがか、やはり目の前の大きな2つの山とその谷間に目がいってしまうことを避けることはできなかった。


「あっ、もしかして……」


 エクレールは勇馬の視線からおかしな態度の原因にようやく気が付いた。


 エクレールは自分を見て同じような態度を示す男たちをこれまで数多く目にはしてきたがそれは思春期を迎えた十代前半の男の子であることが多く、成人して以降の男たちの反応にしては珍しいものであった。



「ちょっと火が強すぎるかしら。暑くなってきちゃったわ~」



 エクレールはわざとらしくそう声に出すと小悪魔的な笑みを浮かべながら魔女服の胸元に指をかけてぱたぱたと空気を送った。

 その行動でただでさえ大きく開いていた胸元がさらにあらわになった。


 勇馬はゴクリと喉を鳴らせ、顔を赤くさせながらもその様子を凝視した。


 自分の予想が当ったことを確信したエクレールは不意に立ち上がった。


 そしてたき火を挟んで向かいに座っていた勇馬の左隣にまでやって来るとそこに腰を下ろした。

 突然の行動に勇馬も面食らう。


「いっ、いったい何を…」



 ――むにゅん



 エクレールは勇馬の隣に座るやいなや勇馬の左腕を両手で掴み、自身の胸元にぐっと引き寄せた。

 勇馬の左腕がやわらかな膨らみに包まれ、勇馬はだらしない顔をさせたまま俯いてしまった。


「ふふっ、かわいい反応。あなたくらいの年齢にしては珍しいわね?」


 この世界では15歳で成人であり、結婚についても現代日本と比べるとかなり早く、20歳までにする者も多い。

 また、奴隷だけでなく娼館の存在も合法であるため、勇馬くらいの年齢になってもこの様に性的に初心うぶな男はエクレールからすれば珍しい存在であった。


 しばらく勇馬の百面相をみていて満足したのかエクレールはぱっと勇馬の左腕を解放した。


 勇馬は残念のようなほっとしたような複雑な表情を浮かべながら左に座るエクレールに目を向けた。


「もう、からかわないでくださいよ」


「ごめん、ごめん。でも役得だったでしょ?」


 そういわれてしまえばぐうの音も出ない。

 勇馬は再び俯いてしまった。



「あなたは見た目もだけど中身も他の連中とはだいぶ違うわね。出身地が違うから? それとも他にも何かヒミツがあるのかしら?」


「秘密ですか? ただの一般人ですよ……」


 エクレールは勘の鋭い女性である。


 この冒険者パーティーは冒険者ギルドではCランクパーティーとされている。

 しかしエクレール個人の冒険者ランクはこのパーティーメンバーの中では最上位となるBランクだ。

 彼女はこれまで多くのクエストをこなしてきたがその成功には彼女の持つ鋭い勘に助けられたことも多々あった。


 エクレールは感じていた。


 この男には何かがある。


 エクレールは見た目こそ人目を引く格好をしてはいるものの決して貞操観念が緩いわけではない。


 先ほど勇馬にしたことを誰にでもするわけではない。


 何か勇馬に絡んでおきたい。


 そう思わせる何かがあった。





「交代の時間ですよ」


 外周を見張っていた護衛冒険者で弓使いのライラとアイリス、それにホフマンの部下の男が戻ってきた。


「じゃあ、行きましょうか?」


 話はそれまでとエクレールが立ち上がり、続いて勇馬も立ち上がった。



 その後勇馬は外周の見張りと火の番を交互にこなし、一日目の役割を無事に果たしてようやく眠りにつくことができた。


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