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6 野営

 勇馬たちは野営に必要な荷物を次々と馬車から下ろしていく。


 野営に必要な道具は基本的にはそれぞれが自分で用意することになっている。


 今回勇馬たちの乗合馬車を先行していた商隊の商人は同行している部下に準備をさせてはいるがそれも自分の力で用意したことには変わりない。

 商隊を護衛していた冒険者パーティーの指導で拠点づくりを始める。まず最初にやることはたき火の準備だ。



「きみたちは燃やせるものを探してきてくれないか?」


 勇馬たちは大きな斧を背中に背負った体の大きな冒険者からそう指示された。彼の名前はガオン。筋骨隆々であり見るものを圧倒する体躯ではあるがその表情は穏やかだ。

 

 乗合馬車の利用条件として全体行動の際には同行する商隊の護衛冒険者たちの指示に従うことになっている。そのため、勇馬たちは唯々諾々(いいだくだく)と指示に応じる。


「何があるかわかりません。バラバラに行動せず、みんなで一緒に行動しましょう」


 トーマスの提案で乗合馬車組の6人は連れ立ってたき火の燃料となるものを探しに行くことになった。


「じゃあボクが見張りをするよ」


 近接戦闘を得意とする冒険者のシェーラがそう提案すると異論は出なかった。

 シェーラが銅の剣を手に持って辺りを警戒する中、勇馬たちは30分くらい林の浅い場所や草原で枯れ木や枯草を集めると拠点へと戻った。


「おっ、結構持ってきたな」


 ガオンはそう言って勇馬たちを迎えると、ある一角に置くよう指示を出した。勇馬たちは集めたものをそこへ置くと取り敢えずの仕事は終了だ。


 夜を過ごすための準備が終わると各々が持参している携帯食を用意してそれぞれ食事を済ませる。食事が終わるころには辺りは暗闇に包まれ、ただたき火だけが赤々と燃えている。




「なるほど、これはいい情報をいただきました」


 たき火の周囲ではあちらこちらでグループができあがっていた。


 行商人のペドロは商隊の主であるホフマンと隣り合って座り商人同士で情報交換をしている。


 ペドロは西方からメルミドの街を経由してその北東にあるレスティを目指す。

 一方ホフマンはメルミドでの商いを終えてレスティにある自分の店へと戻る旅路である。

 ホフマンはメルミド以西の情報を、ペドロは目的地であるレスティの最新の情報をそれぞれ仕入れ、自分たちの扱っている商品についての話もしていた。

 ペドロの隣ではトーマスが興味深そうに2人の会話に耳を傾けている。



 一方勇馬は商隊の護衛冒険者グループのリーダーであるパーシーや乗合馬車で一緒になった獣人冒険者のシェーラやケローネたちと一緒に過ごしていた。


「何だ、お前冒険者じゃなかったのか?」


 何度目ともなく言われたパーシーの言葉に勇馬は苦笑いを浮かべた。


 パーシーが勇馬に冒険者かどうかを確認したことには理由がある。


 野営では時間ごとに交代で見張りを立てて番をするのが決まりであり、見張りの割り振りでは誰がどういった人物か、戦闘を生業なりわいとしているか、そのレベルはどれほどかを考慮する必要がある。

 冒険者となれば当然戦力としてカウントされる。

 なお、今回の道程においては、昼間仕事をしなければならない馬車の御者と商隊の主であるホフマンは見張りを免除されることになっている。


 乗合馬車の客である勇馬たちも見張り番は義務となっている。

 これは元々費用に見当たった負担ということで予め示されている条件であり、勇馬たちも承知していることである。



 それからしばらく雑談の時間を過ごす。

 

 そして就寝の時間。

 

 野営では、いつも寝る時間よりも必然早い時間に休むことになる。もっともその分夜明け前には起きて、夜明けとともに出発することにはなってしまうが。



「それじゃあ見張りだが3つのグループに分ける。順番は、最初がユーマとアイリスちゃんとうちから2人。次に、シェーラとケローネと俺、最後にそちらの残りの2人とうちから2人。ホフマンさんの部下の皆さんはそちらで話し合って各時間1人ずつ出して下さい。以上で進めたいと思うがどうだろう?」


 パーシーの言葉に集まっていた者たちは一様に頷いた。



(最初の見張りというのはありがたいな)



 割り振りを聞いて勇馬はそう思った。


 野営における就寝時間は街でのそれよりも早い一方で勇馬も初めての旅で若干興奮しているのか眠気はまだない。そのため今から寝ろと言われても正直眠れそうもなかった。それに中途半端な時間に起こされるということも勘弁願いたかったのが本音である。



 こうして勇馬は初めての見張りの番に臨むのだった。


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