5 旅は道連れ②
「ユーマさんたちは何しに行くんですか?」
「仕事だよ。ちょっと人手が足りないっていうんでその応援に行くんだ」
シェーラからの質問に勇馬は先ほどトーマスがペドロに説明した内容をそのまま伝えた。
「シェーラたちはどうして拠点を変えることになったの?」
「ボクたちはメルミドの近くにある村の出身で冒険者になるためにメルミドに出てきたんです。だけどメルミドは冒険者が多くって、なかなかクエストをこなせなかったんですよね~」
シェーラは溜息交じりにそう口にした。
メルミドは今や数少ない付与魔法を受注制限なく費用据え置きで受け付けてくれる街だ。
元々規模もそこそこ大きな街だったこともあり、ここ最近は冒険者が多く移ってくる。
一方でクエストの件数は頭打ちであるため仕事にあぶれる冒険者も出始めている。
特にEランクの冒険者は数も多く、その一方で受注できるクエストには限りがあることからどうしても仕事の取り合いとなってしまう。
ランク昇格には規定数のクエストをこなす必要があるため、ランクが上がらなくて受けることができるクエストも少ないままという悪循環に陥る。そのためここ最近は特に低ランクの冒険者がメルミドの街から徐々に離れ始めるという現象も起き始めている。
「ここ最近は冒険者の拠点移動が多いようですね」
「そうなんですか? 何か理由があるんですかね?」
勇馬はペドロとトーマスの会話に耳を澄ました。
「この間まで私がいた西の街では、付与師不足で武具に強化ができないとかでクエストを受けられないためそうではない地域に移るという話がやっぱりありましたね」
「そうなんですか。他の国ではどうなんでしょう?」
「う~ん、ラムダ公国はアミュール王国と同じく状況が深刻なようです。帝国ではそんなことはないらしいですが……」
帝国とはこのアミュール王国の北側にある隣国で正式名称はインぺリア帝国という。
この周辺では帝国といえばインペリア帝国を指し、単に帝国と呼ばれるのが一般的である。
帝国とアミュール王国とは昔から戦争が絶えなかったがここ十年以上戦争は起こっておらず、良好な関係にあると言われている。
「ただ帝国はどうなんでしょう。自由を信条とする冒険者は敬遠するのでは?」
「いえ、実は最近帝国では、冒険者に対する規律や監督が大きく変わったとの話です。この国ほどではないにしてもかなり自由になったらしいですよ。耳ざとい冒険者たちはかなりの数が帝国に流れているという噂もあります」
――長い馬車の旅
初めて会う者同士で会話をする。
他人との会話は、自分たちが知らない新たな情報を得るための格好の手段だ。
この異世界にはテレビもラジオもなく、大規模な新聞もなければネットニュースもない。
しかし、こうして人づてに情報を得るというのは不便ながらも人とのつながりができるという意味で却って有益なことかもしれない。
途中で何度か休憩のために止まりながら馬車は進んでいく。
そしてメルミドの街を出発してから8時間。
勇馬たちがお互い打ち解け、とりとめもない話を続けていると不意に馬車が止まった。
「お客さん、今日はここで野営だ。準備してくれ」
幌の入口から顔だけ出した御者がそう声を掛けてきた。
勇馬は初めてとなる野営にわずかに緊張を感じながら馬車を降りた。




