4 旅は道連れ①
出発から少しして、勇馬は旅のためにと事前に購入していた飴の入った缶をポケットから取り出した。
飴はこの世界では高級菓子だ。
甘いものは嗜好品であり値段が高いため庶民には手が出しづらい。勇馬は付与師としてここ最近かなり稼げているため旅のお供として事前に購入していた。
――ポン
缶の蓋が小気味よい音をたてて開けられた。
その音に馬車の隅で俯いていた2人の獣人の女の子たちは音のした方へと目線を移した。
そしてその目線は今や勇馬が手に持つ飴の入っている缶へと向けられている。
勇馬は自分で飴を1つ手に取り、アイリスの手にも1つ出したところで2人からの視線に気付いた。
「よかったらおひとつどうですか?」
勇馬は獣人の女の子たちにそう声を掛けた。
「……いいんですか?」
白銀色の髪の女の子が躊躇いがちにそう尋ねると勇馬はにこやかに頷いた。
2人の女の子たちは勇馬にお礼を言って飴を受け取った。
エリシアに限らず異世界とはいえやはり女の子は甘いものが好きなようだ。アイリスも2人の女の子たちも頬を緩めた表情で飴を舐めている。
この世界では見知らぬ他人から食べ物をもらう際は時には警戒することも必要である。
しかし、2人の女の子たちは勇馬が買ったばかりと見える缶を開けていたことに加え、その後も勇馬やアイリスが飴を口に入れるところを見ていたため、食べても大丈夫だと判断している。
「あっ、ボクの名前はシェーラといいます。こっちはケローネです」
白銀色の髪をした女の子がそう自己紹介をした。
そしてとなりに視線を送ると美味しそうに飴を舐めていたケローネと呼ばれた青髪の女の子は軽く勇馬に会釈した。
「俺は柊勇馬。ユーマと呼んでくれたらいいよ。こっちの子はアイリス。きみたちは見た感じ冒険者みたいだけど何かの依頼で行くところ?」
「いえ、ボクたちは冒険者だけどクエストではなくて拠点移動です。ユーマさんは護衛依頼ですか? ボクたちはまだEランクですから早くCランクになりたいです」
冒険者ギルドでは入門のFから始まりEからSの各ランクが存在する。
その中で一人前と言われるのがCランクであり、Cランクとなって初めて一般の護衛依頼を受けることが許されている。
勇馬は自分のことを護衛依頼中のCランク冒険者だと勘違いされ苦笑いした。
「お嬢ちゃんたち、ユーマは護衛じゃなくてうちの職人なんだ。心配症で鎧を着こんでいるんだけど何かあったら守ってやってくれないかい」
勇馬たちの会話を傍で聞いていたトーマスはそう言いながらがユーマの隣にやってきた。そして腰を下ろすと勇馬の肩をポンとたたいた。
「え~、ユーマさん冒険者じゃないんですか? その鎧ってブルーバイソンの革の鎧ですよね? そんなに安い物じゃないですよ!」
「もうっ! あんまりそういうこと言っちゃダメよ」
これまで黙っていたケローネがシェーラをたしなめた。
初対面の相手の懐具合を探ることは現代日本でもそうだが異世界でもやはりいいことではない。
「ははっ、まあ見る人が見れば分かるし別にいいよ。それにしても2人は仲が良さそうだね。付き合いは長いの?」
「私とシェーラは同じ村の孤児院で物心ついたときから一緒でした。そろそろ10年くらいにはなるんじゃないでしょうか」
孤児院という単語を聞いて勇馬は一瞬しまったと思った。
聞いてはいけないことを聞いてしまったように感じたが隣に座るトーマスは顔色一つ変えずに話を聞いている。この世界ではさまざまな事情で親のいない子どもはいたるところにいるためトーマスにとってはよくある話のひとつでしかない。そのためこの世界の住人であれば一連の会話に問題があるとは思いもしない。
「きみたちは随分と若いね。いくつだい?」
「ボクたちは14歳です」
「14!?」
シェーラのトーマスからの質問の答えに勇馬は驚きのあまり声を上げてしまった。
『異世界の常識』でこのくらいの年齢で冒険者になる子どもたちがいることは知識としては勇馬の頭に入っている。
しかし、実際にそれを目の当たりにしてしまうとやはり感情が追いつかなかった。
一方、他の3人はシェーラの答えにとくに驚いた様子はない。
この反応一つをとっても勇馬はまだ自分が異世界になじみきれていないことを感じた。




