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35 出向


「お前にはリートリア辺境伯領の領都レスティ支部にしばらく行ってもらいたい」


    

 改めてウォルグと話をすることになり応接用のソファーに座らされた勇馬は事の顛末てんまつを聞かされた。


 曰く、リートリア辺境伯領の領都レスティにある付与魔法ギルドの支部はギルドマスター、副ギルドマスターを筆頭に主力の付与師がごっそり抜けてしまい全く業務が追い付かない状態に陥ってしまったという。

 中堅・若手の付与師たちで何とか業務を回そうとしているが元々の人手不足もあっていっぱいいっぱいであり、ついには完全に回らなくなってしまったということだ。

 

   

「臨時のギルマスとしてうちから1か月程度トーマスを派遣することになった。あと1人応援として中級以上を連れて行く必要があってな」


 その『あと1人』として勇馬に白羽の矢が当たったということだ。


「今回の原因もやはりあいつらでしょうか?」


「そうだな。まあ、あいつら以外が原因でこんなことにはならんだろうな」


 勇馬も2人が話す「あいつら」に心当たりがあった。

 先日会ったオルレアン工房の2人組だ。その後行ったオルレアン工房作成の武具に施された無駄な付与魔法は記憶に残っている。


「まったくろくなことをしやがらねぇ!」


 ウォルグはいまいましそうにそう吐き捨てた。




 結論から言えば勇馬はリートリア辺境伯領へ行くことを承諾することにした。


 今いるメルミドの街にこだわる理由はない一方、リートリア辺境伯領には山ほど仕事があり、それをこなせば相当な収入が見込めるからだ。

 

 それに加えて、勇馬に対する特典として付与魔法ギルドの役職待遇を受けることができるという。


 具体的には作業による報酬とは別にギルドから役職報酬がもらえることになった。




「本当にいいんですか?」


 あまりの待遇の良さに疑心暗鬼にかられた勇馬はそう確認した。


「俺やトーマスだって同じ様なものさ。お前には実力がある。胸を張ってもらえるものはもらっておけばいいさ」


 そう後押しされて勇馬はレスティ行きの準備のためマスタールームから退出した。


 





「ということでトーマス。お前とユーマとで上手くやってくれ」


「わかりました。それにしてもユーマくんを連れて行けるのは大きいですよ」


 一般の付与師は冒険者ギルドでいうところの冒険者である。


 仕事を受ける・受けないは個人の自由であり、各人の判断だ。

 勿論、ギルドから仕事を頼まれることはあるが、最終的に受けるかどうかの判断は個人の自由意思に委ねられることになる。

     

 しかし、ギルドの役職付きとなれば話は別だ。


 仕事を断ることはできない。

 


 このメルミドの付与魔法ギルドにおいてもウォルグやトーマスといったギルドの役職幹部は同時に付与師でもあり、引き受け手のない仕事があればそれをこなしてギルドの業務を回している。


 勿論、その仕事をこなせば一般の付与師と同様に報酬を得ることができるが、昨今の人手不足の影響で多くの付与魔法ギルドでは役職幹部たちが四苦八苦しているのが現状だ。


 レスティの付与魔法ギルドでのことは過酷な環境に耐えかねて役職幹部たちが逃亡したとまことしやかにささやかれている。

      

 


 こうして勇馬は付与魔法ギルドにおいて、登録からわずかな期間で役職待遇を受けるという破格のスピード出世を果たし、新たな街へと向かうことになった。


 第1章終了です。

 次話から第2章です。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 まだブックマークがお済でない方はこの機会に是非お願い致します。


 改めまして、これまでブックマーク・評価をしていただきました皆様、本当にありがとうございました。

 作者が主人公以上にチキンですので感想をいただけないようにしています。

 皆様の反応は数字でしか把握できないため大変励みになっています。 

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