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31 続・すれ違いの主従

 

 勇馬とアイリスの二人三脚が始まって2週間が過ぎた。



 勇馬たちはアイリスを引き取った初日こそ風呂付の部屋に泊まっていたが、次の日からは普通の2人部屋である。


 この宿には1階に大浴場があり宿泊客は自由に入ることができる。勇馬とアイリスはそれぞれ大浴場での入浴を終え部屋へと戻っていた。



「アイリス、何かあった?」


 いつもとは違うアイリスの雰囲気を感じとった勇馬はそう声を掛けた。


 当初こそ勇馬に対して警戒感を露わにしていたアイリスであったが勇馬の穏やかな人柄もあり数日でそれは薄らいでいた。

 勇馬としては普通の主人と使用人という程度の関係にはなったと感じていたが、それが元に戻ってしまったかのような空気だったのだ。



主様あるじさま、お話があります」


「なっ、何でしょうか?」


 堅いアイリスの声色こわいろに勇馬は思わず丁寧語となり背筋もピンと伸びた。


主様あるじさまはどうして私に何もされないのですか?」


「何も?」


 勇馬は素で何を聞かれているのかわからなかった。


主様あるじさまは男ですよね?」


「勿論」


「私を見て何も感じないですか?」


「かわいいな~とか?」


「それだけですか?」



 ここまできて勇馬も何となくアイリスの言いたいことが理解できた。



「俺がアイリスに手を出さないのが不満?」


「なっ、何をバカなことを……」


 アイリスは顔を真っ赤にして否定しようとした。


「まあ、時期尚早だからね。じっくりやっていくことにするよ」


 勇馬は自嘲気味に苦笑いを浮かべてそう口にした。


 自称紳士な勇馬は主人だからと奴隷に無理やりそういうことをするつもりはない。


 心がつながってから身体からだもつながりたいという乙女思考のロマンチストであったりする。


 もっともそのために大学の同級生には随分からかわれた。


 特に初めてはそうありたいという意識が強くその意識の高さから勇馬の身体は今も清いままである。




 勇馬の言葉はそういった想いから出た言葉ではあったのだがアイリスの受け止め方はそれとは違っていた。



(何ですか、今の怪しい笑みは! それに時期尚早? 時期尚早ですって!? つまり私はいつどんなときに突然襲われるのかわからないってことじゃないですか! 私をじわじわと追いつめたいんですか? 油断していて無防備なところをずぶっといきたいってことですか? 変態です! ()()()()()()()()()()()ですよ私の主様あるじさまは~!)



 傍から普通に見えてもアイリスは勇馬の動向をとても気にしていた。


 初日こそ環境の変化への疲れで直ぐに眠ってしまったが翌日以降は常に勇馬の動向に気を揉んでいた。

 そのため実はちょっと睡眠不足になっていたりするのであるがそれを勇馬には気付かせない。



 この日以降、油断してなるものかと気合を入れたアイリスはしばらく睡眠不足の日々が続くのであった。

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