29 すれ違いの主従
食事を終えると再び2人は部屋へと戻った。
アイリスは覚悟を決めた揺るぎのない瞳で勇馬の後に続く。
食欲を満たしたら次は性欲を満たす。
それは現代日本でも異世界でも雄の摂理であることをアイリスは理解していた。
部屋に戻ると勇馬はアイリスにベッドの1つに腰かけるよう勧めると自分はもう1つの別のベッドに腰掛けた。
「よし、改めて自己紹介をしておこう。俺の名前は柊勇馬。名前を呼ぶときにはユーマと呼んでくれればいいよ」
「お名前は承りました。ただ、お呼びするときには主様と呼ばせていただきます」
「うん、まあそれでいいよ」
勇馬は苦笑しながらそれを許した。
身体の自由は許しても心まではそうはいかない、あくまでも主人と奴隷であってそれ以上でもそれ以下でもない。
アイリスの言葉は言外にその意思が溢れていた。
一方の勇馬は最初から焦るつもりはなく時間を掛けて距離を縮めることは元から予定していたことだ。
「じゃあ、今度はきみのことを教えてもらえないかな? 俺はきみの名前がアイリスということしか知らないんだ」
奴隷の過去など知ってどうするんだろうとは思いながらもアイリスは主の命令に従い話始める。
「私は母がエルフで父が人族のハーフエルフです。父が亡くなった後はエルフの国に住むようになりましたがその後母も病気で亡くなり奴隷として売られました」
「アイリスを買うときの条件がちょっと特殊だったんだけど心あたりはある?」
おおよそ勇馬の予想の範疇の生い立ちだったが勇馬は疑問に思ったことを尋ねた。
勇馬はアイリスを買うときの条件を伝えるとアイリスは表情を曇らせた。
「恐らくは私に対する嫌がらせだと思います。万が一にも貴族や王族に買われ、かわいがられることが嫌なのでしょう」
吐き捨てるような口調に勇馬は疑問を抱いた。
「ハーフエルフはエルフの社会ではつらい立場にあることは聞いたことがあるけどそこまでひどいものなの?」
「みんながみんなとは言いませんがハーフエルフを同じエルフだとこれっぽっちも思っていない連中はそれなりの数いると思います。彼らはハーフエルフのことを彼らが馬鹿にする人族や獣人以下の存在だと思っています」
どうやらエルフとハーフエルフとの確執は根深そうだ。勇馬は今はこれ以上の詮索をしないことにした。
「まあ、俺はハーフエルフには偏見はないから安心していいよ。見てのとおり俺はこの国はもとよりこの大陸の出身でもない。ずっと遠くの遠く離れた異国の出身なんだ。『こことは違う常識』の世界で育っているから最初はとまどうかもしれないけどよろしくね」
アイリスは「こちらこそよろしくお願い致します、主様」と応えた。
アイリスの胸の内にあるのは、自分の常識の枠外のどんな変態プレイを強要されるのだろうかというそこはかとない不安だった。
それから時間が過ぎ、夜を迎え後は寝るだけとなった。
机の上の魔道ランプの灯りを消すと部屋は暗闇に包まれる。
今勇馬とアイリスはそれぞれ別々のベッドに入っている。
そんな中、アイリスは1人悩んでいた。
(奴隷となった自分がこのまま何もせずに眠っていいのでしょうか?)
アイリスは自分から主の元へと奉仕に行くべきか、それとも手を出されるのを待つべきかとベッドの中で悩んでいた。
アイリスがちらっと勇馬の方を窺うと勇馬のベッドがもぞりと動く。
「アイリス、眠れないの?」
「いえ、そういうわけでもありませんが……」
「そうか……」
それっきり勇馬は言葉を発することはなかった。
しばらくすると勇馬のベッドから『ぐーぐー』という寝息が聞こえてきた。
その音を聞いたアイリスは「今日は何もなさそうだ」と判断した。
するとずっと続いていた緊張が一気に緩んだのかあっという間に眠りに落ちた。
ブックマーク・評価をいただきました皆様、ありがとうございました。
いただいたポイント数を見てタイミングがよければ日間ランキングの一番下くらいに届くかもしれないな~と思って見てみましたらありがたくも280位で入っていました(日間ランキングは下限の300位がだいたい40P前後みたいでしたので)。
ブックマークの数が20台の底辺作家の作品が書籍化作品と並ぶというのはある意味下剋上みたいなものです(ランキングは下位であっても書籍化作品がゴロゴロしている魔境です)。
皆様のお力で国政に送り届けていただきました(政治家風)。
後押しいただきありがとうございした。
何かお返しができるようなことを考えたいと思います(書くことしかできませんが)。




