23 ヒルド武具店
トーマスの書いてくれた地図を頼りに勇馬はヒルド武具店を目指した。
場所はメルミドの街の中心部にある一番人通りの多いエリアだ。
時間はちょうどお昼にさしかかろうという時間であり、買い物客や昼食をとろうとしている客でごった返している。
そうして着いた店の前に立ち、勇馬はしばし呆然とした。
煉瓦造りの立派な外壁に重厚な一枚板でできた扉。
扉の両側にはきらびやかな鎧兜に身を包み槍を手にした警備兵が歩哨として立っている。
勇馬は恐る恐る店の中へと入っていく。
警備兵には止められることはなかったが見下されたような冷たい視線を感じた。
「いらっしゃいませ」
店に入ると直ぐに執事服を来た中年の男がやってきた。
その男は上から下まで勇馬の身なりを確認すると勇馬に声を掛ける。
「お客様、大変失礼ではございますが、どこか他のお店とお間違えになられてはいらっしゃいませんでしょうか? こちらは『ヒルド武具店』でございますが?」
男の口元は笑っているものの目は笑っていない。
「ええと、ヒルド武具店であってます。ここでどういったものを扱っているのか見たくて……」
勇馬がそう言うと男はため息をつきながら首を左右に振った。
「申し訳ございませんが、物見遊山のお客様はお断りしております」
男がそう言って勇馬に近づこうとした刹那、入口のドアが開いた。
外から2人のお供を連れ、太った体型の中年男性が店の中に入ってきた。
服飾については無知な勇馬からみても「あれって無駄に高いだろうな~」とわかるほど無駄に良い生地と仕立ての服を着ている。
「これはゴールダー様! ようこそお越しくださいました!」
勇馬の目の前にいた執事服の男はいつの間にかゴールダーと呼ばれた男の元にいた。
「何か新作はないのかね? もっとこう人目を引くようなやつは」
「それでしたらこちらの新作の剣はいかがでございましょう?」
「う~ん、いまいちだな。まだ派手さが足りない」
「それでしたらあちらはいかがでしょうか」
執事服の男がゴールダーたちを連れてさらに店の奥の方へと進んでいった。
それを見送った勇馬はさっきまでゴールダーたちが見ていた商品を覗き込んだ。
(うわっ、これは……)
勇馬が目にしたものは、一本の剣。
刀身は金色に輝き、鍔の中心部分には大き目の宝石が埋め込まれている。
柄にも一定間隔ごとに見事にカットされた色とりどりの宝石が埋め込まれている。
商品説明を読むと、鉄の剣をベースとして表面には金を全面に張り、宝石をちりばめたものだという。
それは見た目どおりだとしてさらにお勧めとして『輝き』の付与魔法が施されているとのうたい文句だった。
(何て無駄な付与魔法の使い方だ……)
この武具店の商品をざっと見まわしてみたが、いずれも見た目ばかりは豪華な儀式や典礼用としか思えないものばかりであった。
単に贅沢な素材を使っているというだけではなく、その多くが本来の武具の実用性とは異なる効果が付与されていた。
しかもいずれも有効期間が1年以上の長期付与だ。
「ギルドマスターたちが言っていたのはこのことか……」
貴族や金持ち相手の商売に付与師も一枚噛んでいる。
そういう構図であることが一目で理解できた。
「金儲けが悪いとは言わないけど……」
職人としての矜持を大事にする者であれば到底相容れないものであろう。
しかし、それだけが理由ではない気がする。
勇馬が首をひねっていると後ろから声を掛けられた。
「あなた、まだいたのですか? ご用がないならさっさと出て行ってくれませんか」
執事服の男が冷たい視線を向けてくると勇馬はすぐに店から退散した。




