21 オルレアン工房①
「何度来られても一緒です。私はあなた方には協力できません!」
勇馬が付与魔法ギルドに入ったとき、珍しく受付カウンターに客が来ていた。
来客は2人。長身で細身の男と中肉中背の男だ。
長身で細身の男は神経質そうな顔立ちで眼鏡をかけている。
その後ろに控えるのは中肉中背、ローブをまとって長い杖を持っている。
受付で対応しているのは副ギルドマスターのトーマスだ。
「あなたほどの方がこんな街の副ギルドマスターに留まっているのはもったいないですよ。ご自身の能力に見合った待遇を受ける権利があると思いますが?」
「ご評価いただけるのは大変光栄ですが、私はこの仕事に誇りをもっています。何度来られても一緒です。お引き取りを!」
長身で細身の男は大げさにやれやれといったジェスチャーをすると踵を返して勇馬と顔を合わせた。
勇馬の存在に気付いたトーマスは慌てた表情を浮かべたがその場にいる他の者たちが気付くことはなかった。
「おや、見掛けない方ですな。このギルドの方ですかな?」
「はい。……ええっと、あなたは?」
突然長身で細身の男にそう尋ねられて勇馬は思わずそう答えた。
勇馬の答えを聞いてトーマスはあたふたとしている。
「おっと、失礼。私は、オルレアン工房という武具工房の統括をしておりますマディソンと申します。以後お見知りおきを。ところでお名前をお伺いしても?」
「はあ、勇馬といいます。こちらこそよろしくお願いします」
勇馬がそう返した刹那、マディソンは同行していた中肉中背の男に視線を向け、中肉中背の男はそれに頷きを返した。
(何だろうか?)
勇馬が疑問に思っている間に勇馬はマディソンから二言三言話し掛けられた。
その話題もいつから働いているのかやどこの出身なのかといったあたりさわりのない世間話だ。
「それではまたご縁がありましたら」
マディソンはそう言うとお供の男を連れて付与魔法ギルドから出て行った。
勇馬は不思議そうな顔をしながら受付カウンターに向かった。
「トーマスさん、今の方は?」
「詳しい話はギルドマスターが戻ってからにしよう。ギルドマスターが戻ったら呼ぶのでそれまで仕事をしておいてくれないかい?」
トーマスの落胆した表情を勇馬は訝しく思った。しかしそれをおくびにも出さずに頷くと取り敢えずは今日できる仕事をすることにした。
付与魔法ギルドから出た2人の男はしばらく無言で歩いていた。
そうしてしばらく歩くと中肉中背の男はマディソンの耳元に顔を近づけた。
「魔力ランクは黒ランクでした。引き抜くほどの者ではないと思いますが」
「そうですか。このあたりでは見掛けない風貌でしたのでもしやと思い期待したのですがハズレですか」
言葉とは違いマディソンはあまり残念そうな表情は見せずにそう口にした。




