20 異世界生活1か月
異世界に転移してきて1か月。
勇馬は中級付与師として順調に仕事をしていた。
あれから宿のオーナーであるオルドスから他の部屋にも防音付与の依頼を受けた。
その部屋というのが『ダブルベッド』の置かれた2人部屋だったため勇馬は異世界に来て最も大きな(精神的)ダメージを受けた。
そんな中での作業は正に血の涙を流しながらのものであった。
(俺もすぐにそっち側にいくから待ってろよ!)
そう心の中で叫んで仕事に向かう勇馬の表情を見た宿屋のオーナーは後日こう語っている。
「あんなに鬼気迫った表情の職人は初めてです。こういった素晴らしい仕事はあの覚悟からできるものなんですね」
知らないところで勇馬の評価は上がっていた。
同じころ勇馬を話題にしている男たちが付与魔法ギルドにもいた。
「今月はかなり余裕ができたな」
マスタールームにいるのはマスター席に座るウォルグと机を挟んで立っているトーマスである。
「そうですね。彼が来てくれてから受注処理が劇的に改善しました。彼がいなければ私とギルドマスターとでかかりきりにならないとまずかったかもしれないですね」
「おかげで不要不急の作業は受注停止していた建築ギルドからの受注も再開することができた。まったくあいつらには相当嫌味を言われたからな」
「数も多く捌けましたし、ギルドの手数料収入もあがっています。今のところは順調ですよ」
「そうか。で、あれからやつらに動きはあるか?」
「この街では特にはありませんが他の街では結構あるようです」
「まったく、忌々しい連中だ。それに靡く方も靡く方だ」
「しかし、あれだけ条件が良いと行ってしまうのもやむを得ないかと……」
「だからといってな~」
ウォルグは憮然とした表情で椅子の背もたれに体を預けた。
自分のことを話題にされているとは思いもしない勇馬は今日も今日とて仕事を終えると宿の自室へと戻っていた。
「ふふふっ、いちま~い。にま~い」
笑みを浮かべながら手持ちの貨幣の枚数を数える。
机には大銀貨や金貨が種類ごとに重ねられていた。
目標の300万ゴルドまで道半ば。勇馬は明日もやるぞとベッドに潜った。




