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それから2

「陛下、陛下はどちらにいらっしゃるのですか?」


 白を基調とした司祭服、それを少しアレンジしたような服を身に纏ったセフィリアができたばかりの城の中を走り回る。


「あらセフィリア、いえ宰相様といった方がいいのかしら? そんなに慌ててどうしたの?」


「エクレール、陛下は、ユーマ様はどちらにいらっしゃいます? 急ぎで確認したいことが」


「ああ、ユー、じゃなかった陛下ね」


 そう言ってエクレールは城の窓から遥か遠くまで続く青い空に目を向けた。


「多分、今頃はリートリア公国を過ぎたくらいじゃないかしら」


「はあっ!? 本当に新婚旅行に行かれたのですか? 冗談ではなく?」


「陛下から留守中の一切は宰相閣下に任せるとのことよ」


「……わかりましたわ。ではこちらで対処致しましょう」


 勇馬がこの新しい街をつくり始めてから既に3年以上の月日が過ぎた。


 その間にその街はヒーラ王国という名の独立国の王都ヒラギとなった。


 そんな王都の中心地である王城の廊下で大きな声を上げる2人にさらにもう1人が加わる。


「おや、宰相閣下に王宮魔術師団長殿ではないか。こんな廊下の真ん中でいったい何をしておられるのかな?」


 そう言って2人に声を掛けてきたのは騎士服に身を包んだクレアだった。


「あら、そういう近衛騎士団長様はいったいなんの御用かしら?」


「ああ、陛下がいらっしゃらないからね。守るべき対象がいないというのはやはりどうにも落ち着かないんだよ」


「まさか本当に近衛騎士団長を置いて国を出られるとは……」


 セフィリアの言葉に他の2人も苦笑いを浮かべる。


「いや、まあそれなりの護衛はつけているし」


「たしかに獣王国に行くのであれば獣人の護衛は理にかなっているわね」


 勇馬の指示でこれまで働き詰めだったクレアは旅行中休暇の扱いになっている。


 今回の旅行の護衛には獣人を中心とする護衛を連れての移動をしてもらうことでクレアは折り合いをつけることになった。護衛の中には冒険者をしていたシェーラやケローネといった以前から勇馬と面識のあった者たちも含まれている。


「だったら久しぶりに3人でお茶でも飲みましょうか? 最近忙しくてなかなか時間がとれなかったでしょう?」


 エクレールはそう言って二人の腕を掴んだ。


「ちょっ、エクレール、わたくしは仕事が……」


「いいじゃないの。あんたがそんなに駆けずり回らなくてももう大丈夫よ」


「そうだね。そろそろ肩の力を抜いた方がいいんじゃないかな」


「はぁ~、わかりましたわ。では少しだけですわよ」


 セフィリアはそう言って渋々とエクレールの申し出を受け入れる。


 こうして3人は久しぶりにテーブルを囲むことになった。


 王都を見渡せる大きな窓のある応接室をこの日ばかりは自分たちで貸し切って3人はお茶の時間を楽しむことにした。


 国王も好きに出歩いているのだから自分たちも少しくらいはいいだろうという理屈だがこの3人が言えば勇馬が文句を言うことはまずないし部下の面々が言うことは尚更ない。


 しかし、やはりけじめは大事だということでこれまで3人は公私混同は謹んできた。


「あれからもう2年になるのね」


「本当に、早いものだね」


 3人は窓の外から見える王都の景色を眺めながらメイドが淹れた紅茶に口をつけた。


「まさかあの荒野がこうなるだなんて誰も思わなかったことでしょう。さすがは御使い様ですわ」


 その言葉に他の二人は苦笑する。


 しかし、その言葉を否定することは最早できなかった。


「ユー、陛下が初めて自分の力のことを話されたときはホント驚いたわ」


 エクレールはもう一口紅茶を飲むとそう言って思い出すかのように目を細めた。


「そうだね。まさか神様からもらった魔法のペンだなんて言われるとは思ってもいなかったよ」


「だから言ったではありませんか、陛下は神の御使い様だと」


 街を作り始めてから直ぐ、勇馬はアイリスたちに自分が異世界の神様のはからいでこの世界に来たこと、そのときに神様から魔法のペンをもらったこと、今の自分の力はすべてその魔法のペンの力であることを隠さずに話した。


 勇馬はその説明によって自分は神の御使いではなく神様からもらったチートアイテムのおかげで成り上がったに過ぎない一般人だと説明したのだが……。



(((それってやっぱり神の御使いでは?)))



 勇馬は否定するもののその話を聞いたセフィリア以外の3人はそう思わざるを得なかった。


「それにしても本当にあの魔法のペンの力は凄いものでしたわ」


「そうね。まさか石ころを鉄やミスリル、金に変えることができるとは思わなかったわ」


 街づくりを始めて最初に直面したのが資源の不足だった。


 近くの採石場から石材だけは豊富にそろえることができたもののこの荒野は未だ地下資源の調査が行われておらず、勇馬が有する領地には直ぐに利用できる資源は乏しかった。


 勿論、ラムダ公国から取り寄せることができるものもあるにはあったが絶対量が不足していた。


 そんなときに勇馬は言った。


『マジックペンのレベルが上がったぞ!』


 その言葉の意味を4人はわからなかったが平たく言えば魔法のペンでできることが増えたという話だった。


 なんでもレベルが7になって『ネームペン』という新しい効果を得ることができたらしい。



『このペンで書いた名前のものに変化するんだってさ』



 勇馬がそう言って石ころに『金』と書いたらその石ころはたちまちずっしりと重たい純金に変化した。


 そのときの驚きは未だに忘れることができないと3人は口々に言う。


「陛下が『これで俺も本当の意味で錬金術師だな』と言ったときのエクレールの顔は凄かったよね」


「ええ、さすがにあのときは乾いた笑いしか出なかったわ」


 クレアの言葉にエクレールは遠い目をした。


「お陰で武具の製作が順調にいきましたわ。職人たちからは材料がないと作るに作れないと泣きつかれていましたから」


 未だ完全に落ち着かない周辺国の状況からいざというときに備えるための軍事力の整備は避けられず、そのためには兵士たちの武具をどうにかしなければならなかった。


「だからって総ミスリルの装備はやり過ぎだと思うわ」


「わたしのこの剣はアダマンタイトだからね。これでドラゴンでも倒したらいいのかな」


 そのときのことを思いだした3人はそう言ってお互いに笑い合った。

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