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1 訪問

「主様、サラヴィの代官クライス様から訪問したいとの連絡がきています」


「クライスさんから?」


 勇馬はいまだ慣れない領主館の執務室に置かれていた大きな机の前でその顔を上げた。


 勇馬が街づくりを始めて早くも1か月以上が過ぎた。


 勇馬が整備した新たな街となる予定地の中心には最初に石造りの立派な領主館が建てられ勇馬は慣れない領主としての仕事を始めていた。


「はい。その際、お二人ほど同行させたいとのことです」


「二人?」


 事前の連絡ではベスティア獣王国の猫人族族長のナミル、あとナミルとのつながりで1人ほど族長クラスの者を挨拶に同行させたいという。


 勇馬はナミルと同じ獣王国内の他の族長だろうと思って特に気にも留めなかった。


「わかった、予定を入れて準備しておいてくれ」


「かしこまりました」


 メイド服姿のアイリスはそう言って軽く頭を下げると領主である勇馬の執務室から足早に出ていった。


「ああ、それにしても肩が凝るな」


 勇馬はそう言って自分の肩に手を伸ばして軽く揉むと今度は椅子に座ったままその両腕を天井に向かって伸ばした。


 街の事務仕事は主にセフィリアを中心とした教会関係者に依頼している。


 しかし、だからといって領主である勇馬が何もしないというわけにはいかない。


 どうしても最終確認を求められるため慣れない事務仕事をしていた。


 そんな勇馬に与えられた仕事部屋がこの立派な石造りの2階建ての建物の一室である。


 土地はいくらでもあるからと当初は領主館を1階建てにしようとした勇馬だったが領主館が他の建物よりも低くては威厳に関わるとのセフィリアの言葉によって2階建てになった。


 材料となる石材は勇馬の活躍によって短期間のうちに大量にこの場所まで運ばれてきて今やこの街は建築ラッシュといっていい状態だ。


 領主館を皮切りに公的機関の建物が次々と建てられ、その一方で難民、いや、今や新しい街の市民となった者たちが住む住居もあちらこちらで建てられている。


 石材だけで家ができるわけではないが、その他に必要となる材料は大量に勇馬がラムダ公国から購入し、必要となる作業は市民総出でしている。


 技術的な指導はラムダ公国から派遣された技術者からだけではなく難民たちの中にもそれができる者がいたため当初想定していたよりもかなり早いペースで街づくりは進んでいた。






「本当に街ができているな……」


 建設中の城壁の一応は正門となる場所を通って一台の馬車が街の中へと入ってきた。


 ただの馬車ではない。


 その造り、装飾、そして重厚な雰囲気を醸し出すそのデザイン。


 その馬車に乗っていたのはサラヴィの代官であるクライスだ。


 随行員である女性秘書官を伴い、この日、勇馬を訪問するという約束を取り付けてこうしてやってきたところだ。


「わずか1か月でこれとはな。1年も経てば我が族都をもしのぐ街になりそうじゃの」


 そう言って目を細めたのはクライスに同行した獣王国猫人族の族長であるナミルだった。


 黒を基調とした着物のような和装を幾重にも重ねた服は艶々の黒髪とよく合っている。


 彼女の珍しい装いにクライスも女性秘書官も当初こそ目を引かれたが、いまこの二人が最も気にしているのはナミルの隣に座っていた彼女の同行者だった。


 クライスもナミルから世話になった勇馬に挨拶したい、ついては同じく勇馬に挨拶したいという自分と親しい者を同行させたいとの申し入れを受け、その際、勇馬と同じようにナミルと同格の他の族長クラスの者だろうと思っていた。


 しかし、実際にナミルとともに現れた者はクライスも予想だにしなかった者だった。


 クライスはチラリとはす向かいに座る女性に視線を送る。


 ナミルの隣に座る女性は外の景色を気にすることなく口を真一文字にぎゅっと噤んで下を向いていた。


 本当の意味で物見遊山だろうナミルとは対照的なその様子にクライスは何かあるのだろうと予想をしつつも藪を突いて蛇を出すということは避けるため、何も気付いていないフリをすることにした。


 それこそ下手に彼女の不興を買えば国家間の問題になりかねない。


 いくらラムダ公国第二の都市のサラヴィの代官であるとはいえそんな下手を打てばその立場は危うくなる。


 クライスは彼女の様子を気に留めながらも本来の目的である視察にその神経を集中させることにした。

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