28 直線
「納得いかない……」
勇馬は街の建設予定地で憮然としていた。
「このくらいはいいのではないですか? 些細な問題だと思いますけど……」
「いや、俺の街なわけだからやっぱりそこはこだわりたいわけだよ」
「はあ……」
勇馬の目の前には歪な石畳でできた道があった。
勇馬は街の計画図を元に道となる部分を線で囲むとそこに石畳と書いてみた。
すると地面が灰色の石でできた石畳に変化はしたのであるが一つ勇馬には納得いかないことがあった。
「どうしても線が綺麗に真っすぐ引けない……」
勇馬はマジックペンの長さを杖のサイズに伸ばして歩きながら地面に線を引いていくのだがまっすぐに歩いているつもりでもどうしても右に左にと線がブレてしまうのだ。
その結果できた石畳の道も歪んでしまい、場所によってはぐねって見える場所もある。
「そこは後から削るなりなんなりすればいいのではないですか?」
アイリスがそう言って勇馬を宥めるがそれでは二度手間三度手間になる。
そもそも広大な原野、街の建設予定地ということもあり、その広さはとんでもないものだ。
そんなところを線を引きながら歩くというのも正直かなり疲れる作業だ。
勿論、マジックペンを使わなければそんなものでは済まないのではあるが人間というものは便利なことに慣れてしまうとさらに便利なものを求めてしまうのだろう。
それだけではない。
勇馬にはちょっと急ぐ理由があった。
「街の基礎作りは早く終わらせて採石場での作業もしておきたいからな」
勇馬による石切道具の提供で石の切り出しは驚くほどの効率で進んでいる。
しかし、その石を運ぶのがまた大変なのだ。
勇馬の思い描く街は周囲を高く厚い城壁で囲まれた安全な街である。
その城壁の材料となるのは採石場で切り出された石材だ。
ただその重量はとんでもないものになる。
そんなものを街の建設予定地まで運ぼうと思えばそれだけで大仕事だ。
そのため勇馬は切り出された石材に重量軽減の付与を行い、それこそ老人や女子供でも1人で運べるようにしたいのだ。
ただ、マジックペンを使うことができる者は勇馬しかいない。
作業の効率を考えるのであれば勇馬が採石場にいることが最も望ましいのだ。
「何か新しい機能がついていないかな~」
勇馬はそう言いながらメニュー画面を開く。
すると案の定というか、都合がいいというか、勇馬にとって有益なスキルが追加されていた。
――マジックペン(レベル6・ラインマーカー)
『線で囲ったエリアをペンで記載した任意の状態に変更させることができる。変更の程度に応じて魔力を消費する。キャップの色は焦げ茶色』
付随スキル
一直線モード(始点と終点を定めるとその間にまっすぐの線をひける)
「なるほど、点を打つだけでいいのか。それなら楽だな」
そこまで急ぐ必要のない道づくりは取り敢えず置いておいてあまりの広さのためなかなか手を出すことができていなかった街全体の基礎を整備することにした。
勇馬は街の建設予定地となる広大なエリアの端々に点を打って回る。
点と点を結んでいき広大な原野が線で囲われると岩がゴロゴロしていた原野は平らな土地に変わった。
こうして切り出した石材を迎え入れるための場所をあっという間に用意することができた。
クライスの用意してくれた街作りの専門家との検討で切り出してきた石材をどういう順に使って街にしていくかは既に段取りがついている。
後は採石場から大量の石材を運び込むだけだ。
「ついでに道も整備しておくか」
せっかくなのでと石畳でできた道も整備しておくことにした。
今度はさっきまでの歪なものとは違い、きれいな真っすぐな石畳でできた道をつくるができた。
勇馬は満足した表情を浮かべるとアイリスを伴って郊外にある採石場へと向かうことにした。




