24 公衆浴場
次の日。
「こいっ! マジックペン!」
街の建設予定地のとある区画にやってきた勇馬はテンションましましでマジックペンを顕現させた。
今この場所には勇馬とアイリスしかいない。
難民たちのうち農業従事組はさっそく今日から昨日できたばかりの農地に散らばり、農作業を始めた。
今後その場所には勇馬がクライスから提供を受けた農作物を植えることになっている。
農業経験のある者たちがそれなりにいて、この辺りの気候から栽培に適していそうな作物を試験的にいくらか植えることになった。
そこのところは経験者にある程度任せることにして勇馬は早速公衆浴場づくりである。
勇馬は昨夜、アイリスからの申し出を受けると早速設置計画を立てることにした。
そして一夜のうちにプランニングを終えてどこに何を作るか、湯や水をどこからどう引いて、排水をどう流すかといった細かいところまで電光石火で決めた。
将来的にはその場所にきちんとした大衆浴場を作る予定ではあるものの、当面は難民のための臨時の浴場ということで地面に穴を掘って湯を貯めるだけの簡易的なものとして運用する予定だ。
幸いこの辺りのもともとの土は水が浸透しにくい土なので湯が溜まらないということはないという。
万一の場合はマジックペンで土に性能付与をすれば何とかなるだろうと勇馬は勢いだけでとにかく進めることにした。
男湯と女湯となる2箇所に湯船となる穴をつくるため、マジックペンでその場所を線で囲み『深さ50センチの穴』と書けばそれだけで地面が大きく凹んだ。
多くの人たちが使うことになるだろう公衆浴場なので、一度に10人以上が入っても問題ない十分な広さにしておいた。
そしてそこに湯と水を引くための水路と排水のための水路を作っていく。
水路はマジックペンで『深さ10センチの水路』と書けば簡単に地面が陥没して天然の水路になった。
湯や水を湯船に引く場合とそうでない場合とで仕切るための板などを用意する必要はあるが、その程度であればそこまで時間がかかるものではない。
この作り方だと湯船が元の地面よりも低くなってしまうので、身体を洗うための洗い場も湯船に合わせて同じように低く作るなどして勇馬は四苦八苦しながらもマジックペンを使って浴場作りを続けた。
排水路はさらに低い場所に作ることになったものの実際に地面を掘るわけはないのでその点は問題なかった。
「最後にここを温泉の源泉にして、っと」
勇馬は〇を描くとその中に『温泉の源泉、温度50度』と書いた。
源泉の場所を湯船から遠くない場所に設置できるため源泉としては若干温度を低めにしておいた。
するといつか見た湧水のように地面が窪むとそこからコポコポと音がするとうっすら湯気を上げるお湯が溢れ出す。
まごうことなき100%源泉かけ流しの温泉だ。
「湯舟にはちゃんとお湯が溜まるな」
多少の漏水はあるみたいだが入ってくるお湯や水の量の方が上回るため使用には問題なさそうだ。
むしろ多少の漏水がある方が水が循環していいかもしれないと思ったほどだ。
最後に勇馬が手を入れた場所をぐるりと囲むようにその四方に大きな黒い幕を張って外から中が見えない様にする。
そして浴室となる場所の出入口に脱衣所代わりのテントを設置した。
「よし、完成だな」
「…………」
幕やテントを張る作業を少し手伝っただけのアイリスはあっという間に完成した公衆浴場を呆けた表情で見ていた。
「アイリス、何かもっとこうして欲しいってことはある?」
そんなアイリスに勇馬が後ろから声を掛けるとアイリスはゆっくりと後ろを振り返って勇馬を見ると首を二度三度と横に振った。
「それはよかった、じゃあ、今日から早速運用を始めよう」
この日、勇馬の作った公衆浴場には仕事を終えた多くの人たちが押し寄せることになった。




