20 始動
「新しくできる街への移住を希望する方はこちらに並んで下さい」
セフィリアが声を張り上げて難民たちに声を掛けている。
街の建設予定地の傍にはテントが設置されて街づくり本部として運用されていた。
移住希望者には住民登録をしてもらい、当面の間、水と食料を提供する代わりに街づくりへの協力をしてもらうという条件になっている。
勿論、高齢者や病人についてはできる限りの協力で構わないということになっている。
セフィリアは直ぐに聖都建設の手伝いのためラムダ公国内の優真教のシスターや司祭たちに連絡して数十人規模の人手を確保することができた。
本来の業務に支障がでないようにローテーションを組んで対応してくれるらしい。
新しい街に対する難民たちの反応は様々だった。
荒野のど真ん中。
まだ何もないところに一から入植するというのはさすがにどうかと思ったのだろう。
さらに勇馬の掲げる亜人種にヒト族と同等の地位を認め、亜人種どころか混血種に対する一切の差別を許さないという方針に反発する者たちもなくはなかった。
そのため比較的財産がある者はラムダ公国の市民権を購入しレンブラム要塞を通過するためこの地を離れていった。
それほどでもない者たちはラムダ公国を通過し、さらに他国に行くことを前提に通行料や滞在条件について交渉を始める者も現れた。
「あたしたちはユーマさんを信じようと思う」
そう言ったカリナを始め、メルミドで勇馬と知己となった者やその家族、関係者たちは勇馬のつくろうとする新しい街への移住を希望した。
それ以外はこれ以上他の場所への移動が難しい高齢者や病人、小さな子供を抱える家族など、いわゆる弱者と呼ばれる人たちがやむを得ず残るといった具合だ。
街をつくると決めてから勇馬の動きは早かった。
いたずらに時間を掛けても難民たちに与える食料が増えるだけだということもあり、一刻も早く自分たちの生活は自分たちでできるようにしてもらう必要があった。
「まずはセフィリア。セフィリアは移住希望者の台帳を作ってくれ」
セフィリアと優真教の関係者に対しては行政機関としての作業を任せることにした。
教会関係者は教養があり、文字の読み書きに明るいということがその理由だ。
併せて難民たちの中から料理ができる者たちを集めて炊き出しをするようにとの指示を出した。
食材はクライスとの約定に基づき、勇馬がエリクサーを売った代価の一部としてラムダ公国から提供されることになっている。
「あとは役割ごとに難民たちに仕事を割り振らないといけないな」
まずは街の警備。
勇馬たちがいるこの国境近くの荒野には野生の獣だけでなく魔物や魔獣も現れる。
難民たちがアミュール王国から移動してくる間にも少なくない者たちが魔物の被害に遭ったと報告されていた。
今も時折荒野の彼方に魔物か魔獣らしき生き物の姿が見えることもある。
これは主に難民たちの中にいた冒険者や元冒険者の者たちにしてもらうことになった。
クライスとの約定でラムダ公国から派遣されてきている兵士たちは主に市中警備にあたってもらうことになっているが非常時には魔物対応もしてもらえることになっている。
一般の難民たちに任せることは街づくりと農作業だ。
街づくりのうち、細かい技術的なことはクライスの手配する技術屋に依頼することになっているが、主な作業は近くにある採石場から石を切り出して街の建設予定地まで運んでくるという力仕事だ。
そのため、とりわけ若い男たちがその主力になる。
一方で女性やお年寄り、子供といった層にはしばらくの間は農作業をしてもらう予定だ。
当面、ラムダ公国から購入した食料で食いつないでいくことになるがそれをいつまでも続けられるものではない。
そのため、ある程度の食糧を自分たちで自給できる態勢を整えることが必要だった。
そんな訳で早速勇馬は難民たちを農場エリア予定地に集まるよう指示を出した。




