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19 合流

「主様、お呼びにより参りました」

「ユーマ様、敬虔なるしもべセフィリア、まかり越してございます」


 勇馬のテントにやってきたのはレンブラム要塞内で留守を任せていたアイリス。


 そしてダンジョン都市サラヴィで留守を任せていたセフィリアだった。


 アイリスは軍服姿で階級上位の勇馬に敬礼し、セフィリアは濃紺色のシスター服を身に纏い優雅にスカートを摘まんで腰を落とすと勇馬に向けて深く頭を下げた。



(そう言えばセフィリアは高位貴族の娘だって話だよな。なるほど、これがカーテシーってやつか)



 勇馬はそんなどうでもいいことを思いながらもその視線はアイリスに向けられていた。


 久しぶりに会ったアイリスの顔を見る勇馬は意図せずにその姿を目で追い続ける。


 そんな自分にじっと視線を送り続ける主の姿に当のアイリスは不思議そうな表情を浮かべ首を傾げた。



「ご主人様、そういうのは後でゆっくりやったらどう?」


「……ああ、そうだな。まずは二人に聞いて欲しいことがある」


 無意識にアイリスを凝視してしまった勇馬は後ろで控えていたエクレールにそう指摘されるとバツが悪そうにコホンと咳払いしてそう切り出した。


 これまでになく真剣な表情の勇馬の言葉にアイリスとセフィリアは黙って耳を傾ける。





「なるほど、わかりました」


 そうは言うもののこれから勇馬がしようとする大事業にアイリスも緊張からかその表情は固い。


 その一方で


「うっ、ううっ……」


 セフィリアは泣いていた。


 勇馬も話の途中で急にセフィリアが涙ぐみ突然泣き始めたため一体どうしたのかとおろおろしている。


 その様子をエクレールとクレアは冷めた表情で見ていた。


 二人はセフィリアが泣き始めた理由について何となく予想ができていたからだ。


 そして二人はその予想が正しかったことを直ぐに理解することになる。


「ついに、ついに聖都を創られるのですね! お任せ下さい、このセフィリアが全身全霊をかけて神の都を創ってご覧に入れます!」


 悲しかった訳ではない。


 セフィリアはただただ感動に打ち震えていただけだった。


「そっ、そうか。うん、頼むよ……」


「はい! お任せ下さいっ!」


 セフィリアの熱に若干引き気味の勇馬はそう言って苦笑いを浮かべた。




 伝えるべきことを伝えればあとは早い方がいい。


 勇馬は他の4人を伴ってテントを出ると近くにある街の建設予定地へとやってきた。


「ここなんだけど……」


 アミュール王国との国境とレンブラム要塞のちょうど中間地点。


 街道沿いにある広い土地だ。


 一見して平らに見える土地とはいえ、よくよく見ればゴツゴツとした岩が至るところに顔を出し、赤茶けた大地は乾燥していてカチカチに固い。


「他の場所に比べれば平らといえる場所かもしれないけどこの場所を人が住めるようにするには骨が折れるわね」

「将来的には自給自足をできるようにするのだろう? ということはこの辺りの土地を開墾するということだよね?」


 エクレールとクレアが渋い顔をしながらそう零した。


「水場は街道に沿って小さな川が流れていますね。ただ水量も少なそうですし生活のための水を運ぶのは大変かもしれません」


 アイリスが低い場所を流れている小川を見つけてそう言うとセフィリアは「そうすると灌漑のことも……」とぶつぶつ言いながら一人考え始めた。


「まあ、みんなが言いたいことはわかるけどその辺りはどうにかできそうだからさ。みんなが理想として思い描く街のレイアウトだけ教えてよ」


 その言葉に4人はお互い顔を見合わせる。


「ユーマ様、無礼を承知で申し上げますがやはり現状に合わせた街づくりを考えなければ本当に机上の空論になってしまいかねませんわ」


 セフィリアの言葉に他の3人も無言で頷く。


「そうね。何よりも水をどうするかが大事だと思うわ。それに例えばあそこにある大岩。あれをどうにかするのはわたしの魔法でも正直大変だと思うの。だからあれはしばらくあそこにあることが前提になるでしょうし……」


 エクレールの視線の先には高さにして5メートルほどもある大きな岩がある。


 比較的平らな土地とはいっても整地されているわけでもなく、ところどころに同じ様な岩があった。


 エクレールの指摘はもっともだ。


 ただし、普通の場合であれば。


「まあ見ててよ。まずはあの大岩をどうにかして見せるから」


 勇馬はそう言うと大岩にゆっくりと近づいた。


 そしてマジックペンをステルスモードで顕現させるとその大岩を囲むように地面にぐるっと円を描く。


「主殿、何をしているんだい?」

「主様、遊んでいる場合ではないのでは?」


 クレアとアイリスが訝しげな表情を浮かべる。


 そんな二人の言葉を聞こえないふりをして勇馬はその場でしゃがみ込む。


「ここに『平地』と書いて、と」


 勇馬はそう言って地面にマジックペンで文字を書いた。


 すると描かれた円の内側が淡く光り出したかと思えば次の瞬間、さっきまであったはずの大岩がまるで幻であったかのように姿を消してしまった。


 その跡地には何もない真っ平らな土地があるだけだ。


「おっ、成功だな」


「「「「…………」」」」


 勇馬は一人「よしよし」と言って頷きながら平たく整地されたさっきまで大岩のあった場所を覗き込んでいる。


 そんな勇馬をセフィリアはキラキラした瞳で、他の3人は唖然とした表情で口を半開きにしたまま眺めていた。

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