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16 ことの真相

「ラムダ公国軍である。いったい何の騒ぎだ?」


 勇馬を追ってきた担当者はエリシアとエリシアと一緒にいた商人らしき男に対して事情の説明を求めた。


 話を聞けばその男は奴隷商でエリシアを買おうと無理な取引をしようとしたとのことだった。


 勇馬たちが介入したことで奴隷商の男は媚びた愛想笑いを浮かべながらそそくさと難民たちの集団から離れていった。


「危ないところをありがとうございました」


「いえ、しかしどうしてエリシアさんが奴隷商に売られるとか買うという話に?」


「実は……」


 アミュール王国では王都が陥落してからメルミドの街に貴族や王族、大商人たちが移ってきたらしい。


 その結果、彼らはそれまで街に住んでいた人たちの住居を接収して追い出すということを始めたそうだ。


 エリシアの自宅も接収の対象となり、家族でメルミドの街を離れ、この難民グループに加わってここまでやってきたという。


「ラムダ公国への入国や永住するための市民権を取得するためにはお金が必要で……」


 エリシアには両親と弟がいて、何とか家族の市民権を取得できるだけのお金を作れないかと思っていたところ奴隷商から声を掛けられたという。


「あまりにも金額が安くて足元を見られた金額だったんです。それで断ったんですけどかなりしつこく迫られて……」


 奴隷商自体はこの異世界では違法ではない。


 勇馬も奴隷商を通してアイリスを買ったわけだし、エクレールとクレアを奴隷にしたときも奴隷商の立ち会いでのものだ。


 しかし一言で奴隷商といっても半ば人攫いのような連中もいるということは勇馬も聞いたことがあった。今回の奴隷商はおそらくそれに近い者なのだろう。


「エリシアさん、他に私が知っている人がこの中にいますか?」


「ええっと、どうでしょう……。たしか勇馬さんはメルミドでは『宿り木』に宿泊されていましたよね?」


「ええ」


「実は『宿り木』の皆さんも一緒なんです」


「えっ!?」


 思いがけない言葉に勇馬は思わず大きな声をあげた。


 宿り木は勇馬がメルミドで長期間滞在していた宿で、オーナーのオルドスには指名依頼で仕事をもらったこともある。


 オルドスの孫娘であるフィーネに宿の受付をしていたカリナともそれなりに仲が良かったと思っている。アイリスを奴隷として買ってからはこの二人はアイリスの友人でもありそのことを勇馬も知っていた。


「ちょっと待っていて下さいね。探してきますから」


 エリシアはそう言って勇馬を置いて難民たちの集団の中に入っていった。


 それから数分。


 エリシアは人を伴って集団の中から出てきて勇馬の元へと戻ってきた。


「ユーマさん?」

「本当にユーマさんだ!」


 現れたのは明るい茶色の長い髪のフィーネ、そしてショートカットのくすんだ赤色の髪のカリナだ。


 二人とも笑顔ではあるものの長旅を続けてきたということもあってかそれなりにくたびれた様子だった。


「二人とも久しぶり、なんだか大変だったみたいだな」


「もう、そうなのよ~、本当に大変で……」


 フィーネの表情が一転涙ぐむ。


 どうやら勇馬の顔を見て気が緩みこれまでの溜まりに溜まったものが一気に出てきたらしい。


「フィーネ大丈夫? よしよし辛かったね」


 そんなフィーネの様子を見かねたカリナがフィーネを抱きしめて軽く頭を撫でた。


 難民たちはおそらくお互いに励まし合って厳しい道のりを逃げてきたのだろう。


 二人を見て勇馬はきゅっと胸を締め付けられる思いがした。



「ところでユーマさん、アイリスちゃんは?」


 フィーネが落ち着いたところで空気を変えようとしたのかカリナは勇馬にそう尋ねた。


「アイリスはお留守番だ。この先にある要塞内部の俺の自宅にいるよ」


「そうなんだ。でもよかった、ということはアイリスちゃんは無事なんだね」


「無事?」


 いったい何のことかと勇馬は首を傾げる。


「混乱のどさくさで亜人種の人たちがひどい目に遭っているのを見たから……」

「そう、その中でもハーフとかの混血種の人たちが特にひどかったから……」


 カリナに続いてフィーネが俯きながらそう零した。


 そのフィーネはカリナの服の裾を掴んでいたもののその手はわずかにではあるが震えている。


 おそらく若い娘が見るには耐えない場面を目撃したのだろうと勇馬は悟った。


 アミュール王国の南部はどちらかといえば亜人種に対する差別が比較的少ない地域ではある。


 しかし戦争という大きな政情不安、それも王都は陥落し街からは避難民が溢れるという状況では少数派はどうしても不満のはけ口の対象になってしまうのだろう。


「それよりも二人は怪我をしてないか? ポーションが必要であれば言ってくれ」


 空気を変えようとした勇馬の言葉にフィーネとカリナが顔を見合わせる。


「ありがとう。でもあたしたちは大丈夫」

「うん、歩き続けて足がちょっと痛いけど、怪我ってほどじゃないし」


「そうなのか、それならいいけど」


 二人の言葉に勇馬はホッと胸をなで下ろす。


「ただ……」


「ただ?」


「おじいちゃんがちょっとね……」


 フィーネの言うおじいちゃんとは『宿り木』のオーナーだったオルドスのことだ。


「オルドスさん、どこか悪いのか?」


「う~ん、悪いというか何というか……」


 奥歯になにか物が挟まったみたいなフィーネの言葉に勇馬は首を捻る。


「あ~、オルドスさん、今回のことでかなり大きなショックを受けちゃってて……」


 カリナはフィーネの言葉を引き継いで勇馬に説明を続けた。

【登場人物まとめ(メルミドの街編)】※ 情報は第1部終了時点


【本話関連】

エリシア

長い茶色の髪にスカイブルーの瞳の女の子。年齢は10代後半。

アミュール王国メルミドの街の付与魔法ギルドで受付嬢の仕事をしている。

休日にスイーツ巡りをするほど甘い物が好き。

勇馬がメルミドの街を離れた後、ときどき手紙のやりとりをしていた。


フィーネ

オルドスの孫娘(17歳)で『宿り木』では主にウェイトレスをしている。

大浴場でアイリスと仲が良くなる。

アイリスより年上ということでお姉さん風を吹かせたりする。

※ 本話更新に伴い下記の特徴を旧話(1-1-19)に追記しました。

明るい茶色の長い髪。

顔立ちの整っている美人な女の子で宿の看板娘。


カリナ

宿り木で働く女の子。主に受付を担当している。

※ 本話更新に伴い下記の特徴を旧話(プロローグ2話)に追記しました。

ショートカットのくすんだ赤色の髪。


オルドス

メルミドの街で勇馬が泊まっていた『宿り木』という宿屋を経営しているオーナー。

勇馬に宿の壁に防音の付与魔法を依頼した。


ロッシュ

メルミドの街の建築屋。

勇馬に指名依頼を出した。


【その他】


トーマス

赤茶色の髪の人のよさそうな顔の中年男性で妻子持ち。

メルミドの付与魔法ギルドで副ギルドマスターをしていた。

その後、リートリア辺境伯領のレスティ支部に出向し臨時のギルドマスターになる。


ウォルグ

大柄のいかついおっさん。

メルミドの付与魔法ギルドでギルドマスターをしている。


マリー

長くくすんだ金色の髪の綺麗系お姉さん。

メルミドの付与魔法ギルドでギルドマスター付秘書兼受付嬢をしている。


トニー

メルミドを拠点にするCランク冒険者パーティーのリーダー。

母親が『白蝋病はくろうびょう』という病に罹かかっていてその治療薬の材料である『ひかり苔ごけ』を採取するためラムダ公国のダンジョンに潜る(その後、無事に採取を終えて戻る)。

その準備のため勇馬に半分後払いで武具への付与を依頼する。


マディソン

長身細身の男でオルレアン工房という武具工房で統括をしている。

トーマスを工房に勧誘した。


ゴールダ―

太った体型の中年男性。

勇馬がヒルド武具店に行ったときに店に入ってきた金持ちそうな男。

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