12 それぞれの事情
「ふ~、どうやらアミュール王国の王都はとんでもないことになっているようだな」
勇馬は自分のテントに戻るとテントで待っていたエクレールとクレアにさっき聞いたことを話した。
「そういえば2人は家族とかは大丈夫か? そもそも奴隷にしてしまったけど挨拶とかした方がいいんだろうか……」
「わたしのところはその点では大丈夫だ。生きていたとしても今さら連絡をとろうとも思わない」
クレアの家は元々アミュール王国のとある貴族に仕えていた騎士の家という話だ。
アミュール王国は女性であっても実力があれば騎士になれるのでクレアも子供の頃は騎士を目指していたそうだがとある事情で実家は没落。
家族は散り散りとなりクレア自身はそれまで鍛えていた剣技を生かすため冒険者への道を選んだそうだ。
「わたしも両親が今どこにいるのかすらわからないわね」
エクレールの家は平民の商家だったが事業が傾き店と家を失い両親は行商人となって各地を転々としているらしい。
両親が行商をするのに幼かったエクレールは余所の家に預けられることになったそうだ。ただエクレールには魔法の才能があったため魔法を教えてくれる教師の元に預けられることになったという話だ。
そこで魔法を学んで最終的には冒険者になったのだとか。
二人にとっては家族よりもアミュール王国にいる友人の冒険者たちの様子の方が気になるようだ。
二人はレスティのみならず、メルミドやその周辺を拠点とする冒険者たちとも親交があったことは勇馬も知っていたのでその心配する気持ちは理解できた。
「冒険者は人同士の戦争には徴用されないルールは一応あるし、戦争は基本軍人同士でのものだから大丈夫とは思うが……」
「でもいろいろと混乱するでしょうし、そうなるとクエストどころじゃないでしょうね。その日暮らしの冒険者もそれなりにいるだろうからそれはそれで大変だと思うけど……」
クレアとエクレールが口々にそう零す。
冒険者が徴用されないとはいっても、食べていけない冒険者が傭兵団に入って結果的に戦争に参加するということはあるという。
(やはり異世界は世知辛いな)
現代地球においても日本や先進国以外では似たような環境がないとはいえないしそれよりもひどい場所もあるのかもしれない。
しかし平和ボケした日本で生まれ育った勇馬にとってはあくまでも『異世界だから』という認識しかなかった。
「アミュール王国の王都より北が制圧されたというのであればセフィリア殿のご実家はただでは済まないだろうな」
「セフィリアの実家?」
クレアの呟きに勇馬は思わず反応を示す。
セフィリアの口調から元はどこかいいところの御令嬢なのではと何となしに思っていたが、そういった者が教会でシスターをしているという場合は多かれ少なかれ訳アリだ。
そんな理由で勇馬は敢えてセフィリアの過去には触れようとは思っていなかった。
「何ていったかしら。どこかの貴族だったわよね」
エクレールがクレアの顔を見て確かめるようにそう言った。
「ああ、セフィリア殿のご実家は王都の北、帝国との国境からもそこまで離れてはいない場所を領地に持つ公爵家だよ」
「公爵家!」
王様以外の貴族の序列でいえば最上位と言っても過言ではない地位だ。
「何でそんな高位貴族の娘がレスティの教会でシスターなんてやっていたんだ?」
レスティはリートリア辺境伯領の領都だ。
領都とはいえ辺境という名の示す通り、レスティはアミュール王国では中心から外れた田舎街という扱いだ。
「そこのところはわたしたちも知らないね。気になるになら聞いてみたらいいんじゃないかな? セフィリア殿も主殿に聞かれれば何でも答えるだろう」
「それはそうだろうけど……」
神の御使いとして崇めている勇馬に聞かれればセフィリアは嬉々として答えるだろう。
しかし、そんな関係を利用して本来他人に知られたくないだろう話を聞き出すというのはどうだろうか。
勇馬はそんなことを思いながらサラヴィでの留守を任せているセフィリアのことに思いを巡らせた。




