11 難民
調査隊は先遣隊を前方の集団へと差し向けた。
先遣隊が見たものは何台もの馬車に大きな荷物を満載した一団であった。
馬車とともに歩みを進めるのは年齢も性別もさまざまな人たちだ。
老人もいれは子どももいる。
男もいれば女もいる。
その中でもいくつかのグループがあり、年齢、性別から家族ごとでグループになっていることが推測できた。
「我々はラムダ公国軍である。この集団のリーダーはいるか? この地はラムダ公国の領土であるがどこへ向かうつもりなのか確認させていただきたい!」
先遣隊のリーダーである下士官が大声で集団を呼び止めた。
集団はその声を聞いて歩みを止めると、その中から年老いた男性とその男性によく似た中年の男が進み出た。恐らくは親子なのだろう。
「わたしたちが一応リーダーということになっています。わたしたちは戦火を逃れてこちらへ逃げてきたアミュール王国に住んでいた者です」
「あなたたちの状況はわかった。ただ、我が国にも決まりがあり、誰でも彼でも入国させるわけにはいかない。ここをもう少し進んだところに水場があるのでそこで待機してもらい、こちら側の調査に協力してもらいたい」
一団は下士官の指示に従い、指示された場所まで誘導された。
調査隊は先遣隊と合流し、少し離れた場所に宿営地を設置することにした。
この場所で難民たちの身元や持ち物をチェックし、本当に危険のない集団なのかを確認し、アミュール王国の内情について情報の聞き取りを行うことになった。
「大佐殿はあちらでお待ち下さい」
周りが宿営地の設置を始めたので勇馬も手伝おうかと向かったところ、近くにいた兵士からそう告げられた。
「主殿、こういうことは慣れている方々に任せた方がいい」
クレアの助言に従い勇馬は仕方なく馬車の中で設営を待つことにした。
それからしばらくして勇馬に宛がわれたのは幹部用の大き目のテントである。
中には勇馬と護衛の二人のための簡易ベッド、小型ではあるがテーブルと椅子も設置されている。
「大佐殿、隊長がお呼びです」
勇馬は伝令兵に伴われて休む間もなく調査隊の隊長が待つ本部テントへと向かった。
「大佐殿、お呼びして申し訳ない」
調査隊隊長の階級は中佐であるため実は勇馬の方が階級は上であるためかなりやりにくそうだ。
「いったい何のご用でしょうか?」
「はい、今から集団のリーダーからの聞き取りをしますのでご同席いただこうかと思いまして」
勇馬は頷き、隊長とともに取調場所として設置されている本部隣のテントへと入った。
そこには既に集団のリーダーである老人とその息子であることが確認された中年の男が待っていた。
テーブルを挟んで向かい合い、隊長が主に質問をする横で記録係が調書をとっている。
勇馬は記録係とは反対側の隣で隊長と親子とのやり取りを聞いていた。
聞き取りによるとこの集団はアミュール王国のとある街から逃げてきた一団とのことだった。
その街はメルミドとメルミドの北にある王都との間にある街だ。
帝国は王都よりもさらに北にある国であり、帝国の奇襲により王都の北側、国境付近の領地はほぼ制圧されている状態だという。
そこから王都へ逃げてきた者も多数いて、その王都からも今後の危険を察知してさらに南へと逃げようとする商人や貴族たちで王都の南側の街も混乱に巻き込まれているようだ。
一部の横暴な貴族によって一方的に土地や建物が接収されることもザラで、物資の不足や物価の高騰で日常生活も混乱しているという話だ。
そのため今回の集団の人たちは早めにアミュール王国に見切りをつけ、さらに隣国へと逃げてきたという。
当初はもっと大きな集団だったようだが、メルミドで留まるもの、いったんメルミドまでへ移りその後、さらに他の街へ移る者など、どんどんと散り散りになっていったという。
今回の集団が恐らく最も遠くへ向かおうとしている集団ということになるだろう。
「大佐殿、何か聞きたいことはありますか?」
隊長がある程度聞き取りを終えたところで勇馬に声を掛けた。
「メルミドやレスティといった街のことで何か知っていることはありますか?」
「メルミドにも多くの避難民たちが移動していったということくらいでしょうか。レスティについては申し訳ございません、わたしには何もわかりません」
中年の男が申し訳なさそうにそう言った。
この集団はラムダ公国にたどり着いた第一陣で早い段階で出発した集団であるためそれ以上の情報は持っていないようだ。
「ありがとうございました。あとみなさんの中で怪我をしたり体調が悪い方はいらっしゃいますか?」
「足を怪我したり痛めている者は多数おります。これまで長い距離を歩きどおしでしたので……」
「わかりました。ではポーションを支給しましょう」
今回勇馬が同行するにあたって司令官からポーション類については勇馬の判断である程度は自由に提供してよいと許可を得ている。勇馬が要塞に供給している量が既にかなりの量となっていて備蓄に余裕があるからだ。
聞き取りを終えると勇馬は自分付の兵士に指示してポーションを支給するように手配すると自分のテントへと戻った。




