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7 支部

 幹部会議を終えた勇馬は護衛として司令塔まで同行していたアイリスとエクレールと合流すると二人を伴って司令塔を出た。


 塔の外は会議に出席していた要塞の幹部たちを待つ多くの馬車で混雑していた。


「この中から自分たちの馬車を探すのは大変そうだな」

「そうね、ちょっと時間を置いた方がいいかもしれないわね」

「ではどうしますか?」

「ちょうど昼時だから近くで昼食を食べられるところがあればいいけど…」


 アイリスに勇馬はそう言ってどこかいい場所はないだろうかと首を捻った。


「司令塔の中にレストランがあったわよ」

「しかし、そちらも私たちと同じように考える人たちで混雑しているのでは?」


 アイリスの指摘に「う~ん」と悩んでいると近くの建物に昼休憩中と思われる兵士が集まっている建物が目に入った。


「あそこに人が集まっているけどなんだろう?」

「食堂……ではなさそうね」

「兵士さんだけでなく地位の高い人もいらっしゃいますね」


 勇馬に続いてエクレールとアイリスも人が集まるその場所を見て首を傾げた。


 身なりから兵卒だけではなく士官クラスの人もちらほらいるようだ。


 ここで待っていても暇なこともあって、勇馬たちも物見遊山で覗いてみることにした。




「……これは」


「ここは教会ですね」


 勇馬に続いてアイリスが建物の中へと一歩足を踏み入れた。


 中には長椅子が並べられ、建物の奥には一段と高い檀が設けられている。


 どうやら熱心な信者が昼休みにお祈りに来ていたようだ。


 広さはそれほどではないが建物の中は既に多くの信者と見られる兵士が祈りを捧げていた。


「それにしてもみんな熱心ね」


 エクレールが感心するようにその姿を眺める。


「ここは何の教会でしょうか?」


 アイリスがぐるっと周りを見渡した。


 この国を含め周辺の国では聖教会が最も規模が大きい宗教組織だった。


 普通に考えれば聖教会の支部だと思うところだがラムダ公国は聖教会と事実上一体となっているレガリア神聖国と戦火を交えて以降、聖教会を事実上排除する方針をとっている。


 特に軍事施設であるこのレンブラム要塞に聖教会の施設があるとはとても思えなかった。


 聖教会以外にも自然崇拝であったり、聖獣を信仰するグループがあったりするもののどれも小規模な宗教で思い当たるものではない。


 三人は人の流れに乗って何とも思わず中へと入ってしまったので取り敢えず一度外に出てみることにした。


 そして建物の入口に掲げられていた看板を見て勇馬は絶句することになる。



 ――優真教レンブラム支部



 ここは優真教の教会支部だった。








「それにしてもここまで広まっているなんてね」

「ほんとうにびっくりです」

「……」


 勇馬たちは司令塔に戻ると自分たちの迎えの馬車に乗って自宅へと戻ることにした。


 馬車の中では押し黙る勇馬を後目にエクレールとアイリスが口々に感想を言い合う。


 セフィリアが優真教を唱えるようになったのはわずか2か月ほど前のことだ。


 勇馬たちが獣王国に行く前はサラヴィでようやく浸透し始めたという程度だった。


 それが獣王国にいたわずか1か月の間に他の地域にまで教会支部ができているというのだからその伝播の速さは驚きだった。




「この要塞には以前神聖国との前線で戦っていた兵士が多く異動してきていますから」


 自宅に着き、馬車から降りるときに何気なく御者のべラム軍曹に話を振ったところそういう答えが返ってきた。


「なるほど、つまり『神の奇跡』を目の当たりにした人が多くいるというわけですね」

「それはしょうがないわね」

「……」


 勇馬もちょっとやり過ぎたし理屈としては納得できるものの感情としてはそうはいかなかった。


 礼拝をしていた信者の多くが口にしていた言葉が勇馬の記憶に蘇る。


『天にまします我らが神よ。この地に使わされし御遣いユーマ様の御力をもって我らを救いたまえ、導きたまえ……』


 セフィリアに布教を許したとはいえ、まさかここまでになるとは思っておらず、勇馬はどうしたものかと頭を悩ませた。

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