6 幹部会議
この日は2週間に一度開かれるレンブラム要塞の幹部会議の日だ。
勇馬はいつものように御者であるべラム軍曹が操る馬車に揺られて司令塔にまでやってくると会議室へと案内された。
会議室はコの字型にテーブルが並べられ、一番奥に要塞司令官のアルベルトの席がある。
勇馬は入り口にいた案内役の兵士に誘導されて席へと案内された。
(おいおい、上座じゃないか……)
大学に入ったばかりで社会人経験のなかった勇馬ですら案内された席が要塞司令官の席のすぐ近くで上座であることくらいは理解できた。
会議開始の時間が迫る中、次々と要塞の幹部たちが会議室へと入ってくる。
他の幹部たちの波に交じって要塞司令官であるアルベルトの姿が見えた。
「司令官殿、おはようございます」
勇馬は一応上司であるアルベルトに起立してあいさつした。
「おお、ユーマ。ご苦労」
アルベルトは気さくに右手を挙げて応えると勇馬の傍を通って自分の席へと腰を下ろした。
この場では他の部下がいる手前、アルベルトは要塞内の上官として勇馬を普通の部下として扱う。
これは初日に勇馬がアルベルトに挨拶に行ったときに予め言われていたことだった。
「定刻となりましたので会議を始めます」
司会進行役がそう口上を述べ会議は始まった。
最初に前回の会議以降にこの要塞に着任した新参の幹部の紹介が行われた。
ここ2週間でこの要塞に異動になった幹部は勇馬だけでなく、勇馬は何人かのうちの1人として紹介された。
しかし、勇馬は元々が10代であることに加えて日本人特有の若く見られる傾向から、他の出席者の注目を浴びることとなった。
もっとも、勇馬が「特務大佐」の肩書で主に備品を準備する後方支援部門であるということもあり、特に存在についてあげつらわれることはなかった。
「それではアミュール王国とインペリアル帝国との戦況についてですが…」
要塞内の会議なんて自分には全く関係ないと思っていた勇馬だったが、今一番知りたい話題がしょっぱなから出てきて思わず姿勢を正した。
諜報部門の担当者が前に出てきて大きな地図を示しながら並み居る幹部たちに説明を始める。
勇馬はこの世界に来て初めて地図らしい地図を目にした。
この世界では、その国の地図は最重要国家機密である。
そのためこのラムダ公国が用意している地図はこの国が独自に収集した情報から作成されたものであり測量等がされて作成されたものではない。
ある程度大雑把な概要図とも言えるものではあるが、これまで具体的に国の大きさや街の位置関係があやふやだった勇馬にとっては新鮮であった。
「現状、帝国が王国の国境近くを制圧し、王都へ向けて進軍中であります」
「今後の見通しは?」
「王国軍は態勢の立て直しに苦労しており、王都から高位貴族たちが逃げ出し混乱しております。王国としては予断を許さない状況です」
「王都が陥落する可能性もあると?」
「御意」
報告者に矢継早に質問した司令官のアルベルトは他の参加者に対して質問を促した。
二人ほど一つずつ質問したところで「ユーマくんは王国にいたと聞いているが何か聞いておきたいことはないかね?」と水を向けられた。
「そうですね……私はここらの出身ではないので知らないのですが、これまでのいきさつから帝国はどこまでやるつもりなのでしょうか。要は、ある程度の領土を得れば矛を収めるのか、それとも王国を滅ぼすまで続けようとしているのか。後者の場合も王国全土を完全に制圧するところまでするのか、王家を廃しさえすれば良いと考えているのか。その結果によってこちらの動き方も変わってくると思いますが」
「なるほど、そのあたりどうなのかね?」
「はっ、帝国は30年前の王国との戦争以降、表面的には友好を演じてはおりましたが、水面下では長い年月を掛けて王国弱体化の工作を行っていたようです。局地戦にとどまらず、最終目標は王国の打倒、王家の排除と思われます。もっとも、全土制圧まで考えているかについてはわかりかねます」
「うん、わかった。こちらとしても動向を注視しながらいざというときに備える必要があるということだな。よし、下がれ」
報告担当者は頭を下げて退出した。
その後、要塞内部の部署間での調整や要塞内部の状況報告等で午前中いっぱい時間を使った。
勇馬としては肩書上仕方なく参加することになった会議であったが思いがけず普通に生活していては知ることができなかった情報を得ることができた。




