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29 猫人族

 あれから2週間が経った。


 勇馬は既に最低納品数を大きく超えたポーションの納品をし、この日は昼過ぎに孤人族族長のヴォルペの館に呼ばれていた。


「やあ、ユーマさん、どうぞこちらへ」


 護衛のアイリスとともに勇馬はヴォルペに促されるまま応接室へと案内された。


 部屋には着物の上にエプロンを身に着けた孤人族の若い女性がいて勇馬に緑茶の入った湯飲みを給仕した。


「どうぞ」

「ではいただきます」


 出された湯飲みに手を伸ばしてずずっとお茶を飲む。


 この街はどちらかというと和テイストのものが多く、お茶といえば緑茶を飲む習慣がある。


 しばらく無言でお互いお茶を啜っているとヴォルペが口を開く。


「いやあ、ユーマさんのおかげで予定よりも早く、しかも大量にポーションが手に入りました。大変助かりました」


「いえ、ビジネスとしてやっていますので。しかしそうおっしゃっていただけるとこちらもうれしいですよ」


「想定以上の量が確保できましたし、予算との兼ね合いがありますのでそろそろこの辺りでと思っています。しかし、今後のことも考えてある程度備蓄も必要だろうということもあり、あれこれ考えているんですよ」


 ハハハと笑うヴォルペに勇馬も余所行きの笑顔で「そうですか」と返す。


 勇馬としてはこのあたりで打ち止めをほのめかしての料金値下げ協議が始まるのだろうなと漠然と構えていた。


「ところでひとつお願いしたいことがあるのですが……」

「何でしょうか?」


 勇馬は内心「キター」と叫びながらも冷静なふりをして様子を伺う。


 しかしその内容は勇馬の予想していたこととは違った。


「もしよろしければ会っていただきたい方がいるのです」


「別に構いませんがどなたですか?」


「わたしと同じ獣王国を構成する一部族、猫人族の族長です」


 勇馬はその申し入れを了承し、改めてこの日の夕方に会うことになった。





「あれっ、あなたは……」


「おお、ぬしくだんの錬金術師殿であったか」


「おや、お二人とも顔見知りですか?」


 勇馬が出会ったのは以前、甘味処で遭遇した雰囲気のある猫獣人の女性だった。


「妾は猫人族のおさナミルという。よろしく頼む」


「改めまして柊勇馬です。こちらこそよろしくお願いします」



 話というのは他でもなかった。


「やはりポーションですか……」


「うむ、ヴォルペ殿からいくらかは我が猫人族へ融通してもらえるようこれまで交渉していたのだがまだまだ足りん。できるだけ欲しいのじゃ」


「狐人族として確保しておきたい分はもう納めてもらっているのであとはユーマ殿の判断だ。猫人族がこれまでの環境を維持するコストは負担する話になっているのでユーマ殿がよければ引き続き可能な限りポーションを作って欲しい」


「元々1か月の予定でしたので数日であれば滞在しても構いません」


「おおっ、それはありがたい!」


 勇馬とナミルの話し合いで勇馬はポーションを2000本納入するということになった。


 仕事の話が終わり一段落ついたところでナミルが尋ねた。


「ところで、ユーマ殿は亜人がお好きなのかの?」


「えっ、どうしてですか?」


「連れている護衛が獣人にエルフとなればそういう嗜好かと思うての」


「まあ、嫌いではないのですが」


 勇馬にとってはこの世界では差別の対象となりそうな獣人やハーフエルフといったファンタジーな種族がいてこその異世界なわけでむしろ望むところであった。


「そうじゃ、ぬしに宛がう女子おなごの用意はできておらなんだが……」


「えっ、いえ、それは別に……」


 獣人国側では勇馬は無類の女好き、それも獣人などの亜人もお構いなしの節操なしという認識だ。


「まあ、それほど周りに女子おなごを侍らせておれば半端な者では務まらないであろうよ。では、その分の埋め合わせとしていつか我が猫人族の街へ招待しよう」


「おお、それはいい! 猫人族の族都は海に面した街。美味い魚を食べることができますからな」


「魚ですか!」


 ヴォルペの言葉に勇馬が食いついた。


 この世界に来てから勇馬はまともな魚を見掛けたことは少なかった。


 川魚か干すなどして加工された魚を時々見掛けたくらいだ。


「あとは感謝の印に主にはこれを渡しておこう」


「これは?」

 

「それは我が猫人族が感謝の印に渡す物だ。猫人族絡みのトラブルは勿論、この国で何かあっても主の助けとなろう」


「そんなにいい物を? ありがとうございます」


 勇馬はナミルから猫人族との友好を結んだ証としてペンダントをもらった。



「うむ、ところで話は変わるが主が連れている護衛のハーフエルフ、今の女王に面差しが似ておるが縁者か何かか?」


「えっ?」


 ナミルが部屋の隅で控えているアイリスを見てそう言った。


 ナミルの話では大山地の麓にエルフの国があるらしい。


 そこは女王が治める国でナミルもその女王と面識があるという。


「いつだったかこないだもうたぞ、うちの港から出る船に乗ってエルフの会議に行くと言っておったな」


 話によるとこの世界にはエルフの国というのは1つだけではなく複数あるそうだ。そして、ときどきエルフの国々の代表者が1箇所に集まって会議をしているらしい。



(そういえばアイリスについては知らないことだらけだな……)



 そこそこ長い間一緒に生活をしてきたはずだが、勇馬は今更ながらにそう思った。


 元々アイリスを買うときの条件からして何かおかしかった。


 そのことを思い出してアイリスに視線を向けた勇馬にアイリスは首を傾げて応えた。

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