表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/226

27 不機嫌の理由

 ――次の日



「何かアイリスが冷たいんだけど何か知らない?」

 

 午前中にはその日のポーション作りを終えた勇馬が今日の勇馬付き護衛当番のクレアに尋ねた。


「いえ、特にはなにも。主殿に心当たりはないのですか?」


 勇馬は首を横に振る。


 朝からアイリスはクレアからでも分かるほど目に見えて機嫌が悪かった。


「だとしたらやはりアノ日だろうか?」

 

 クレアが男である勇馬に対してぼかして女の子の日である可能性を挙げた。


「いや、その流れはもうやったから違うと思う。というよりもアイリスのその日はもう少し先だからどっちにしても違う」

「主殿はアイリスのそんなことまで把握しているのか!?」

 

クレアは、すすっと勇馬から距離をとった。流石に腕利きの剣士だけあり流れるような身のこなしだ。


 奴隷は主人のモノであるとはいえ奴隷のアレの周期まで把握しているとすればその主人は筋金入りの変態であろう。


 クレアの中で勇馬のあるじポイントが大幅マイナスのストップ安だ。この日の値下がり制限を無視して軽く限界を突破した。


「……いや、冗談だから。本当は知らないから、本当に……」

 

 クレアは半眼で勇馬にじっと視線を送る。


 勇馬も負けじとクレアの目を正面から見据えた。


「わかった。一応信じよう」

 

 クレアはそう言って勇馬の近くに戻ってはきたものの最初に比べると一歩勇馬から離れた場所である。信頼は失うときは一瞬であり一度失った信頼は中々元には戻らない。勇馬はそのことを痛感した。


「それで話は戻るけど、クレアはアイリスのことで何か心当たりはないかな?」


「う~ん、わたしには分からないな。そもそも主殿の話が男女関係の機微についてであればそういった経験のないわたしではお役に立つことはできないと思うよ」


「クレアは男と付き合ったことはないのか?」


「恥ずかしながら冒険者になってからは腕を磨くことが一番だったし、足を怪我してからはそういう余裕もなかったからね」


「あなたたちこんなところで何をやってるの?」


 二人が廊下で「う~ん」と考え込んでいると外の見回りを終えたエクレールがちょうど戻ってきて声を掛けた。


「エクレールか、実は……」

 

 勇馬はクレアと話していたことを簡単に説明した。


「アイリスは昨日の夜に見張りを交代したときからあんな感じだったわね。昨日の夕食のときは普通だったから、夕食後、寝るまでの間に何かいつもと違ったことをしなかったかしら?」


 エクレールの言葉に勇馬は昨日の自身の行動を振り返ってみた。


 昨日、夕食後は自室にずっといてアイリスには会っていない。


 変わったことといったら昨日は――


「……なるほど、わかった」


 勇馬は確信をもってそう言葉にした。


「そう、詳しいことは聞かないでおくけど早く仲直りしてよね。アイリスってば不機嫌モードのときには冷気を飛ばしてくるから」


 エクレールは「水魔法なんてそんなに教えてないんだけどな~」と言いながらその場を後にした。


「そうとわかれば早速準備をしておくか。クレア、午後からちょっと買い物に行きたいから外まで護衛を頼むよ」


「わかった。では外出の準備をしておくよ」


 こうして勇馬は午後から買い物に出かけることにした。






 そしてその日の夜。


 台所での片づけ物を終えるとアイリスは自室へと戻った。


 そして部屋に入ってすぐ、『アイリスへ』という表書きのある白い封筒が置かれていることに気が付いた。


 中には勇馬からの手紙が入っていた。



『今夜10時、俺の部屋に来て欲しい』



 アイリスは何の用事だろうかと一瞬いぶかしく思った。


 しかし、ある可能性に思い至ると心臓がドキンと震えた。


 アイリスは入浴にはいつもより時間を掛け、身体は隅々まで洗った。風呂上りに身に着ける下着も真新しいちょっと大人向けのデザインのものにしておいた。

 あくまでも『もしも』に備えただけと自分の心に言い訳をしながら。


 そして午後10時、アイリスは指定された時間通りに勇馬の部屋へとやってきた。



 ――こんこんこん



 アイリスが3度ドアをノックすると中から「どうぞ」という勇馬の声が聞こえた。


「失礼します」


 アイリスは少し上ずったような声でそう言うと、ドアノブに手を掛けて扉を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ