25 甘味処
「いらっしゃいませ~」
勇馬たちが入ったのは一軒の甘味処と書かれた看板のお店だ。
「おっ!」
出迎えた狐獣人の店員たちの服装を見て勇馬は思わず声を上げた。
「主様、どうかされました?」
「いや、こんなところでお目に掛かるとは思わなかったからね」
「?」
狐獣人の店員たちが身に纏っているのはこの世界に来てからまだ見ることのなかった和装だった。
女性の店員たちはみな色とりどりの裾の長い袴を着ていて、客席の間をせわしなく動いていた。
「珍しい服装だね、この国の伝統衣装なのかな?」
「袴っていう服だな。なるほど獣人の国の装いになっているんだな」
目を細めて言ったクレアに勇馬がそう感想を漏らした。
「お客様、3名様ご案内です」
勇馬たちは店員にテーブル席にと案内された。
「何かお勧めはありますか?」
「なんでもお勧めできますが、今でしたら大福ですね」
お品書きを眺めながら尋ねた勇馬に店員はそう答えた。
「でしたらそれをお願いします」
「お飲み物はどうされますか?」
「緑茶で」
勇馬は間髪入れずに注文を終えた。
「…………」
「…………」
「あれ? どうしたの?」
勇馬はふと二人の従者が自分をじっと見つめる視線に気付いた。
「大福ってなんですか?」
「主殿、随分ここの食べ物に詳しいんだね」
勇馬にしてみれば勝手知ったるというか馴染みのある食べ物だったので特に迷うことなく注文したものの他の二人はどうやら違うようだ。
「みんなにはここの食べ物はあまりなじみがないのか?」
勇馬はこの世界に転移してからこの世界の文化は和洋折衷的だと思っていたもののそういえば純和風的な食べ物はあまり目にしていなかったなと今さらながらに気付いた。
二人も勇馬が食べるものならばと勇馬と同じものを頼んだ。
「中に黒いものが入っていますね」
「餡子っていうんだ。俺は粒あん派なんだが、おっ、粒あんだな」
「モチモチしているね」
「甘すぎないほど良い甘さですね」
勇馬は久しぶりの味を、他の二人は初めて食べる味をそれぞれ楽しむ。
「あー、やっぱり緑茶はいいな」
「この苦い飲み物が合いますね」
「いつも飲むお茶とは違うけどこれもお茶なんだよね」
勇馬に続いてアイリスとクレアがお互いに感想を言い合う。
こうして3人が甘味に舌鼓を打っていると突然声を掛けられた。
「我が同族にしては不思議なことを言う。外の生まれかえ?」
思いがけず声を掛けられて勇馬たちはその声の主を見た。
声の主は背の低いフサフサで艶々の黒い毛に覆われた猫耳を頭に付けた長い黒髪の猫獣人だった。
この店の店員とは異なる着物の様な和装を身に纏っている。
勇馬はその体型から一瞬子供かと思ったが、その声と立ち居振る舞いからそうではないと思い直した。
「おっと、突然失礼した。同族を目にして思わず声を掛けてしもうたわ」
勇馬たちの反応を見た猫獣人の彼女はバツが悪そうな表情を浮かべて一言謝罪するとクレアの頭に生えて見える猫耳に視線を送ってそう言った。
「ええ、彼女はアミュール王国の出身なんですよ」
「お主がこの者の主か。他国では獣人を不当に扱う輩もいると聞いていたがこうして同じテーブルを囲む者もいるんじゃな」
猫獣人の彼女は勇馬の言葉に相好を崩した。
「……そろそろ」
「おお、そうじゃ。突然申し訳なかったの」
彼女の後ろにいた護衛だろうか、体躯の大きな猫獣人の男性が彼女にそう声を掛けると二人は勇馬たちの元を後にした。
「びっくりしました」
「やっぱりわたしのことは猫獣人に見えるんだね」
アイリスとクレアは店から外に向かう二人の後ろ姿を眺めながら口々にそう言った。
「それにしてもなかなか雰囲気のある人だったね。身なりも良かったし護衛役もつけているみたいだから地位のある人かもしれないな」
勇馬は緑茶を啜りながらそう感想を漏らした。




