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24 散策

「おー、ホントに獣人が多いな」

 

 街を歩く勇馬の目にはフサフサの耳やしっぽを生やした獣人が行き来するまさにファンタジーの光景だった。


 勇馬もシェーラやケローネという二人の獣人たちと行動を共にしたことがあるとはいえ、メルミド王国やラムダ公国では獣人はときどき見掛ける程度だった。

 

 しかし、視界いっぱいに獣人たちがワラワラとしていればそれは勇馬にとってかなりのインパクトだった。


「そうだね、こんなに多くの獣人を見るのはわたしも初めてだ」


 クレアもそう言って目を細めた。


「ルナールさんが釘を刺されたのでそんなことはしませんけど、ちょっと触ってみたいですよね」


 アイリスがそう言って道行く獣人たちの耳や揺れるしっぽに視線を送る。



「それにしても木造の建物が多いな」


「この国は大山地に近いからね」


「大山地?」


「この国はインぺリア帝国と地図上では隣接しているんだよ。ただ、その間には高い山々が連なっていてその山々は大山地と呼ばれているんだ」


 クレアはそう勇馬に説明した。


 大山地の山麓には森林が広がっていて樹木が豊富にあるため獣王国では木が多く使われているという。


 木造の建物が多いとはいえ、中には石や煉瓦で作られた頑丈そうな建物もチラホラと目に入る。


 そういった建物は冒険者ギルドなどの公的な建物のようだ。


「それにしてもやけに視線を感じるな」


 そう言った勇馬自身、黒髪黒目という容姿のためにこれまでそれなりに人目を惹いていた。そういう訳でそれなりに視線には慣れがあったつもりだったが獣人が主体となるこの街ではその勇馬が気にするほどだった。


 この国にもヒト族はいないことはないがやはり少なく、今は事情が事情であるため勇馬たちに対しては色々な方向から多数の視線が向けられている。この街は戦争の前線から離れた場所にあるとはいえ、ベスティア獣王国とレガリア神聖国との間で今は戦争中だ。しかもレガリア神聖国はヒト族至上主義を掲げているためそれは仕方のないことだろう。


 もっとも、獣人たちと良好な関係にある国や組織、団体もそれなりの数あるため、ヒト族全体に対する反感や憎悪にまでは至っていない。


 もし勇馬たちに危害が加えられる恐れがあるのであればルナールも勇馬たちの単独での街歩きを認めることはなかっただろう。


「わたしはちょっと慣れないな」


 勇馬の護衛として後ろを歩いていたクレアがそう零した。


 クレアは良くも悪くもそれまで過ごしていた街では容姿は普通であったため、あまり注目されることには慣れていないのだろう。


 どうにも居心地が悪そうだ。


「だったら、ちょっと試してみたいことがあるんだけどいいかな?」

「?」


 勇馬の言葉にクレアは首を傾げながらも「主殿がそう言うなら」と頷いた。


 3人は人目に触れないようにとちょっとした建物の蔭に入った。



(マジックペンをステルスモードで顕現させて、と)



――マジックペン(レベル5・5、メイクアップペン+) 


『人の身体の容姿の一部を変えることができる。キャップの色は虹色』



 それなりにポーションを作り続けていたことからか実はマジックペンのレベルが上がっていたものの使いどころがなくそのままになってしまっていた。



(これでクレアさんの耳に『猫耳』と書くと……)


 

「あっ、耳が!」


 アイリスが思わずといった様子で声を上げた。


「うん、成功だ」


 クレアの頭の上には髪の毛と同じ色のフサフサな毛で覆われたぴょこんとした猫耳が生えていた。


 何が起こったかわからないクレアが首を傾げるので「頭の上を触ってみて」と言うとクレアは「おおっ、何かついてるぞ」と興奮気味に言った。


「3人のうち1人くらいは獣人がいた方が何かと警戒されないだろう。これならクレアにはそこまで視線は向かないと思うよ」


 こうして3人は再び街歩きを再開した。


 クレアはやはりその耳が気になるのか何度も自分で触り、アイリスはそんなクレアの猫耳をチラチラと見ている。


「どうする? どこか休憩できるお店にでも行ってみる?」


「そうですね、何か甘いものを食べたいです」


 勇馬の言葉にアイリスがそう答えた。


 当初こそ自分の希望をあまり口にしないアイリスだったが今やこうして自分の意思をはっきり伝えてくれるまでになった。


 勇馬はそんなアイリスの姿に自分の頬が緩んでいるのを感じながらどこかいいお店はないだろうかと辺りを見回した。

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