15 打診
教会が開設されてすぐ、再びパーティーハウスに代官の使いの者がやってきた。
勇馬も当然のように呼び出しに応じた。
「ふふっ、ユーマくん最近は大活躍みたいじゃないか」
「教会のことでしょうか?」
「わかるかい? そうだね、まさかそんなことをやってのけるとは私も思っていなかったよ。それでひとつお願いしたいことがあってね」
話によると神聖国との戦闘において聖教会に帰依する兵士の一部の士気が上がらず、それどころか反乱の兆しすらあるらしい。何とか前線の兵士たちに聖教会以外の宗教を広めたいという相談だった。
「どこまでやれるかわかりませんが協力しましょう。ただし、場所が場所ですので全面的な協力をお願いします」
「それは勿論」
こうしてクライスの依頼で優真教はサラヴィの街を出ての布教活動をすることになった。
勇馬はセフィリアと護衛役としてクレアとエクレールを連れて神聖国とラムダ公国との国境付近の街までやってきた。
「さすがに戦争の最前線の手前の街だな。雰囲気がピリピリしている」
クレアがそう言って街を見渡した。
元々の人口がどのくらいかはわからないが、一般市民の数は少ないように見える。
恐らくそれらの人々は街から逃げており、この街には兵士やその兵士を相手にした商店くらいしか残っていないのだろう。
この街に駐留している兵士たちに優真教を布教することが今回のミッションだ。
「それでどうするのよ?」
「まあ、やることは1つですわね。ユーマ様による奇跡をみなさんに体現してもらう。それだけですわ」
エクレールの疑問にセフィリアがそう答えた。
セフィリアたちが入ったのは兵士たちの救護所である。
それも普通のポーションや回復魔法ではどうにもならない重傷者たちがいる場所である。
「う~」
「痛い、誰か……誰か助けてくれ……」
「……苦しい……苦しい……ひとおもいに殺してくれ……」
中には床に申し訳程度の敷物に寝かされている重傷者たちである。
体に巻かれた包帯には赤い血がにじんでいる。
身体の欠損を抱えている者たちが多く、命が助かったとしても兵士として前線に復帰することはおろか日常生活をすることもままならないだろう。
それ以前に戦争による物資の不足によりこの様な者に対して十分な食事が与えられることもない。
ここは誰からも見放されたまさに死を迎えるのを待つだけの場所であった。
そんな場所でセフィリアは兵士一人ひとりに声を掛ける。
兵士たちはシスター服を身に纏ったセフィリアを視界に入れると涙を流して懇願した。
皆、平穏な死を、死後の救済をと願う。
誰もがこのまま生きながらえことができるとは思ってもいなかった。
ただ求めるものは今この瞬間の苦痛からの解放と死後の救済である。
こんな目にあってもまだ神を信じる目の前の人々に勇馬は宗教の重さを痛感することになった。
【新作のご案内】(7/2)
ジャンル違いで恐縮ですが新作を投稿しました(全6話・完結済み)。
『王太子殿下は真実の愛を貫きたい』
https://book1.adouzi.eu.org/n4251hb/
全部で約1万5000字の実質短編作品です。
初めての異世界恋愛ジャンル作品です。
どちらかというと女性向け作品ではありますが、男性の方も楽しめる作品にしたつもりです。
一応純愛ハッピーエンド(のつもり)ですが少し大人向けかもしれません。
是非一度覗いてみて下さい(といいますかジャンルが違いますと新入り扱いであるため相手にされなくてシーンとしていますので助けて下さい)。




