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14 布教の結果

「ユーマ様、この度教会を持つことになりました」


「……はっ?」


 セフィリアが布教を始めてから1週間後、勇馬はセフィリアから思いも寄らない言葉を告げられた。


「ええと、それはいったいどういうことだ?」


「どうもこうも……言葉通りの意味にございますが?」


 確かにその通りであるが何でそんなことになったのかということを知りたかった勇馬はセフィリアからこの一週間のことを聞いた。



「つまりセフィリアが治してあげた人の中にそこそこ裕福な商人がいたっていうことか」


 セフィリアが最初に奇跡を起こしてからは人々に対して祈りと誓いを求めつつ、セフィリアはエリクサーを使って人助けをしながら布教を進めていた。


 その中に、エリクサーを買って使えるほどの財力まではないものの、世間一般からみれば裕福な者たちもいて、それらの者たちが優真教に帰依するとともに寄進を申し出てきたという。


 そして拠点となる教会もないということを知るやセフィリアの意図しないところで教会を作るということが決まってしまった。


 場所は奇跡の恩恵を受けたそこそこ裕福な商人が持っていた空き建物である。


 最初はただでくれるという話だったが、流石にそれは、ということで格安の賃料で借りることになった。


 ちなみに運営費については他の信者からの寄進で十分に賄えるらしい。


「正直ちょっと舐めてたな……」


 現代地球の中で恐らくトップクラスに宗教に無頓着な現代日本で暮らしていた勇馬は宗教の価値や位置付けについての感覚がこの世界の人間とは違っていた。


 この異世界では人々にとって宗教は現代地球におけるそれよりも大きな価値を持つものである。


 勇馬も法学部に入って当然憲法を学んでおり、その中で「信教の自由」の重要性については知識としては持ってはいた。

 しかし、現代日本に生きる若者の常として、日常の中でそれを感じることは皆無であった。そのためこの世界での人々の宗教に対する熱について読み違えてしまったというところだ。

 今回はそれだけでなく、エリクサーを使った奇跡という名の現実的な恩恵があったため、輪を掛けて大きな結果となってしまった。


「それでユーマ様にお願いしたいことがあるのですが……」





「……どうしてこうなった」


 ダンジョン都市サラヴィに優真教の最初の教会が開かれるその日、教会にはセフィリアと優真教の信者となった者たち、そして勇馬がいた。


 教会の礼拝堂の中には信者が祈りを捧げる長椅子があり、奥には説法を行う聖職者が立つ一段高くなっている檀が設けられている。


 さらにその奥はもう一段高くなっていて誰かが座ることを予定しているのか豪奢な椅子が置かれていた。


「ユーマ様は何もしていただく必要はありません。ただこの服を着てあの一段高い所にある椅子に座っているだけです」


 そう言ってセフィリアに渡されたものは白色を基調とした法衣とマント、顔を隠すためのヴェール、そして豪奢な杖である。


 この教会のお披露目にあたって御使いである勇馬のお披露目も兼ねているということで勇馬としては顔の表情が引きつる事態であった。どこまで意味があるのかわからないが顔を隠すことで折り合いをつけることになった。


 式典はつつがなく進んだ。


 勇馬は置物のように椅子の上に座っているだけであとのことは全てセフィリアが執り行った。


 正直勇馬は自分がいなくてもいいんじゃないかと思ったがセフィリアにとっては必要なことらしい。

 

 勇馬としては今後普通に暮らせるだろうかと若干の心配はあったがそれはどうやら大丈夫なようだ。


 セフィリアは目の前にいる勇馬そのものを神の御使いと言っているのに対し、信者たちはユーマと言う名の目に見えない天使か精霊のような者がいてそれが神の使いとして自分たちとの橋渡しをしてくれるという認識を持っていたに過ぎない。

 式典で登場した御使いとしての勇馬はあくまでもその役としての位置付けでしかなく、多くの信者たちにとって勇馬はただのエキストラでしかなかった。


 セフィリアは「上手く伝わりませんわ」と消沈していたが勇馬が胸をなで下ろしたことは言うまでもない。

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