12 爆誕優真教
勇馬はパーティーハウスに戻るとクライスとのやりとりをみんなに話した。
「ユーマ様はラムダ公国に協力されるご意思ということでしょうか?」
「まあそうなるね。今までの聖教会であればお互い関わらないで過ごせたのかもしれないけれど今のままではちょっと看過できないよ」
「でもラムダ公国が神聖国に勝てるのかしら? 国力も随分違うように思うけれど」
「しかもラムダ公国の兵士たちにも聖教会の信者は多いんじゃないかな? 神聖国と聖教会はつながりも深いし兵士の士気も維持できるのかな?」
エクレールに続いてクレアも分が悪い戦争だと口を揃える。
「この国の信者は穏健派だと聞いていますので今の聖教会のやり方には疑問をもっている信者も多いと思います。そこまで深刻な影響はないと信じたいのですが……」
セフィリアが希望的観測を口にするものの空気は重い。
「そういえばセフィリアって聖教会を辞めたのよね?」
「はい、わたくしはユーマ様の僕。ユーマ教とでも申しましょうか」
「だったら新しい宗教を広めてはどうかしら? 戦争も始まって不安も大きいでしょうし、聖教会の信者が神聖国と戦争しているというのも落ち着かないでしょう。新しい教えを広めるのにちょうどいいんじゃないかしら?」
「ユーマ教は困るけどそれは1つのアイデアだな」
エクレールの話は確かに理に適っている。
聖教会とは別の教えを浸透させることができれば神聖国との戦争にも兵士の士気は落とさないことができるかもしれない。
「なるほど。それは良い考えですわね」
セフィリアは早速次の日から行動を開始することにした。
セフィリアがしていたポーション作りの指揮はアイリスが代わりに行うことになった。
とはいえ孤児たちの仕事は既にルーティーン化しておりアイリスが特にあれこれと指示をすることはほとんどない。
午後からの孤児たちの勉強はエクレールが教師役をしてくれることになった。
「それでは行ってまいりますわ」
シスター服を身に纏ったセフィリアがそう言って家を出る。
「気を付けてな」
勇馬の言葉にセフィリアは笑顔で頷くと颯爽と歩いて行った。
セフィリアには勇馬が作ったエリクサーを多く持たせている。
勇馬が考えたのは簡単なことだ。
エリクサーが必要となるほどの困っている人たちを助けて布教をする。
これがペテン宗教であればサクラを用意して偽の奇跡を演出するのだろう。
しかし自分たちはエリクサーを使えば現実に奇跡を起こすことができる。
勿論、エリクサーというアイテムを使った結果であり奇跡でもなんでもないことなのだが、限られた王侯貴族か大金持ちにしか使うことができないエリクサーを使わせてもらえること自体、そこらの平民にとっては奇跡といえば奇跡だろう。
こうしてセフィリアは布教に出掛けた。
ちなみにセフィリアが説く新しい宗教は『優真教』というらしい。
種族は皆平等であり差別を禁止し、弱者を助ける真(ほんとう)に優しい宗教ということだ。読み方によっては「ゆうまきょう」と読めることはただの偶然だろうから勇馬は考えないことにした。
1人布教に出たセフィリアはかつてないほどの意気込みを持っていた。
(御使い様の僕として大変名誉なことですわ!)
これまでは自分だけが勇馬の偉大さをわかっているだけだった。
しかし、これからはそれを多くの人々に説いて広めることになる。それも勇馬のお墨付きでだ。
信仰を持つ者としてこれほどの喜びはないであろう。それも勇馬から下賜された奇跡を起こすアイテムであるエリクサーを持たされて実際に困っている者たちを救えと言われているのだ。
熱心に神を信仰するセフィリアが意気に感じないわけがない。
セフィリアは説法を始めるため強い決意をもって人通りの多い街角に立った。




