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9 広がる戦火

 他の錬金術師が材料の確保に苦しみ生産量を減らす中、勇馬は修正ペンから抽出した液を使って大量のポーションを作り続けていた。


 勇馬の工場は週休2日制。


 孤児たちは朝9時から12時まで、昼1時から2時までが仕事の時間だ。


 昼休みはそれぞれで食事をとることになっていたがセフィリアが自分たちの食事を作るのであれば子どもたちのも一緒に作ってもいいのではと言いだしたことから勇馬の工場は昼食の賄い付きの職場となった。

 子どもたちも当初はポーションの作業だけをしていたが昼食の賄いがついたことで子どもたちにも食事の用意や片付けをさせるなどして経験を積ませている。

 

 昼2時から4時までは子どもたちの勉強の時間だ。

 

 主に文字の読み書き、簡単な計算、そして最低限度の常識とマナーを教えている。

 聖教会が正常に機能して孤児の面倒をみていたころにも孤児たちに読み書きを教えることはあった。しかし、体系だってのものではなかったし、聖書に絡めての布教の一環としてのものであったため日常や仕事で役に立つかといわれれば少々疑問もあった。

 そこでセフィリアは子どもたちが将来自分で生活をしていくために必要になりそうな内容を優先的に教えている。




「それでご主人様はここにいていいの?」


「今さらだね。ポーション自体は作ってあるから後は俺がいなくてもいいから大丈夫だよ」 


 ダンジョンの18階層にはエクレール、クレア、アイリスそして勇馬の姿。


 勇馬は今日は移動工房の仕事はそこそこにして3人のダンジョン攻略の付添いである。


「主様、ダンジョンは危ないですから戻られた方がいいのではないですか?」


「アイリスちゃん、もっと素直に『邪魔だからとっとと帰れ』って言ってやったらどう?」


「おい、エクレール聞こえてるぞ。まったく、奴隷になって少しは大人しくなったかと思ったけど全然変わってないな」


 奴隷になった当初こそ勇馬に対する言葉使いも丁寧になっていたがここ最近は遠慮がなくなってきたようだ。


「しかし主殿。あれはエクレールの照れ隠しのようなものですので広い心で見ていただければと」


 そっと勇馬の耳元でクレアがそうささやいた。


 勇馬としても暇なときにはエクレールの様子を見てその辺りは理解しているつもりだ。


 ちなみに勇馬の命令でエクレールの外出時には以前の様な露出の多い服装は禁止にしている。勇馬曰く『あのエロい恰好を他の男の目にさらすことは許さん』ということで今のエクレールは全身をきっちり覆うタイプのローブを身に纏っている。


「ダンジョンは危険だからな。心配だったんだよ」


 勇馬はそう言ってアイリスの頭を軽く撫でた。


「ご主人様が一番危険だと思うけど……」


「それにしてもダンジョン内の冒険者の数が減っていないか?」


 戦争が始まって徐々に冒険者の数が減ってはいたが、ここ最近は特にそれが顕著になっているように感じた。


「傭兵団が冒険者を勧誘しているようです。かなり高額な報酬を提示してそちらに流れる冒険者もいるようですよ」


 クレアがそう説明した。


 戦争は冒険者の動向にも影響を与えているようだ。





 翌日、パーティーハウスにいた勇馬の元へとセフィリアが駆けてきた。


「ユーマ様、大変です」


「どうしたんだ、そんなに慌てて」


「インぺリア帝国がアミュール王国に戦争を仕掛けたとの噂です」


「ほんとうか?」


 インぺリア帝国はアミュール王国の北側にある国だ。


 インぺリア帝国とアミュール王国との間では随分前に大きな戦争があり、30年ほど前に戦争が終結し、和平が結ばれてからは平和なときが続いていた。そのため当事国の一般市民はもとより隣国の首脳にとってもインぺリア帝国の突然の侵攻は晴天の霹靂であった。


「メルミドやレスティのみんなは大丈夫だろうか……」


 勇馬は2つの街の付与魔法ギルドや宿屋で短くない時間を過ごしている。少なくない数の顔が浮かんでは消えた。


「メルミドもレスティも帝国との国境からはかなり離れていますわ。帝国との国境からはアミュール王国の王都の方が近いですから直ぐに何か起こるということはないとは思いますが」


 翌日になっても勇馬の心は晴れないが、ポーション作りの商いはうなぎ登りの状態が続いた。 


 錬金ギルドからはあるだけ卸して欲しいという矢のような催促である。


 需要に応えて勇馬も製造量を大幅に増やした。


 1日の生産量は今や初級ポーション500個、中級ポーション300個、上級ポーション200個である。卸値も戦争前に比べて5倍程度に跳ね上がっており税引き後利益は一日でウン百万ゴルドにも達している。


「儲かるのはうれしいけどその理由が戦争というのは何とも複雑だな」


「しかし、これで助かる命があるのですからいいのではありませんか? ユーマ様が戦争を起こされたわけではないでしょう」


 武器の商いで儲けているのであればまさに死の商人というところであろうがそう言われれば幾分気も楽になる。


「まあ、こんな状態はそう長く続かないだろうから儲けはちゃんと貯金しておかないとな」

 

 勇馬のその言葉とは裏腹に神聖国と獣王国との戦争は長期化の様相を呈している。


 一方でインぺリア帝国とアミュール王国との戦争については正確な情報は入って来ていない。戦争は終わったという噂やまだ続いているという噂、王都が陥落したという噂などが入り乱れている。


 そんな中さらに混乱に拍車を掛ける情報が飛び込んできた。



 ――レガリア神聖国がラムダ公国に宣戦を布告した



 こうして戦火は大陸中に広がり勇馬たちにも迫っていた。

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