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7 戦争勃発

 勇馬は2日に1回午前中に付与魔法ギルドへ行って仕事をし、その日の午後はポーション作りをした。

 そうでない日は朝から夕方までアイリスたちとダンジョンへ行ってダンジョン内で『移動工房バフ屋』を営むという生活をするようになった。


 そうして2週間が経ったころ、勇馬が錬金ギルドへとポーションを納めに行くと錬金ギルド内がいつもとは違う雰囲気に包まれていた。


「こんにちは、何かありました?」


「ああ、ユーマさんでしたか。ここだけの話、実は隣国で戦争が始まったらしくて。今、どんな影響が出てくるか情報収集をしている最中なんですよ。でも間違いなくポーションの値段は上がるでしょうね。今のうちに材料を確保しておいた方がいいかもしれませんよ」


「戦争ですか!? 隣国というとアミュール王国ですか?」


 思いがけない言葉に勇馬は思わず大声を上げた。


「いえ、そちら側ではなく反対側です。このラムダ公国の北側にある二つの大国、ベスティア獣王国とレガリア神聖国との戦争ですよ」


 ラムダ公国の北にはベスティア獣王国とレガリア神聖国という二つの国がある。


 獣王国は獣人の王が治める国であり民のほとんどが獣人である。国と銘打ってはいるものの統一的な国家ではなく各部族の寄せ集めであり良く言えば連邦国家である。そして王はそのときそのときで一番力の強い部族の長が就く習わしである。


 神聖国は聖教会の守護者を自認する国家である。国内に聖教会の総本山を抱えており聖教会のトップである教皇の権力は国王を上回ると言われている。


 勇馬は直ぐに宿へと戻ると皆を集めた。


「詳細は不明だけどこの国の北にある二つの国同士で戦争が始まったという話を聞いたんだ。しばらくは不測の事態に備える方がいいかもしれない」


「獣王国と神聖国ね。まあ、いつかは起こると思っていたわ」


「そうだね。今の神聖国の王様は人族至上主義の考えで獣人たちに対して厳しい対応をしていたらしいからね。聖教会はこれまで穏健派が主流で過激な政策には否定的だったみたいだけど最近は聖教会の中も人族至上主義の急進派が勢力を強めていたみたいだから」


「以前の教皇猊下は穏健派でしたが数か月前にお亡くなりになられ、新しい教皇猊下がそろそろお決まりになられたはずです。今回の戦争はこのことと無関係ではないかもしれません」


「新しい教皇が急進派でブレーキ役がいなくなっての開戦という可能性があるのかもしれないな」


「どちらにしても私たちに影響がなければいいんですけど」


「そうですわね。まあ、よほどのことがない限りは大丈夫だと思いますけど」





 そうしてさらに2週間が経った。


 当初こそ隣国での戦争の影響はみられなかったが徐々に現れてきた。


「ユーマさん、あなたのところは納品数が変わらないんですね」


 勇馬が錬金ギルドにポーションを卸したときに窓口の職員にそう声を掛けられた。


「他の方は何か変わりがあったんですか?」


「ポーションの原料になる薬草が獣王国から入りにくくなったからね。原料不足で他の錬金術師の納品数が少なくなってるんだ」


 普通とは違う方法でポーションを作っている勇馬からすれば無関係ながらも納得できる話であった。当然のことながら他の錬金術師は錬金術とはいっても無から有を生み出すわけではない。


 世間話をしながら勇馬は納品したポーションの代金を受け取った。


「あれっ? ちょっと多くないですか?」


「ああ、納品数の減少と戦争による需要増でポーションの値段が大きく上がっていてね、買取金額もそれに伴って上がったんだよ。戦争が続く限りこれからも上がっていくだろうね」


「なるほど、そういうことですか」


 勇馬は納得しながら錬金ギルドを出た。


「あれっ、セフィリア。どうしたんだ?」


 今日の勇馬の護衛役であるセフィリアは錬金ギルドの外で勇馬を待っていた。


 しかし、勇馬が錬金ギルドから出てきたときにはじっと街の様子を眺めていた。


「あれは孤児か……」


 セフィリアの視線の先にいるのはぼろぼろの服を身に纏った薄汚れた子どもたちだ。こうして街をうろうろしているのは親を持たない孤児たちである。


「戦争が始まるまでは聖教会が孤児院を運営して子どもたちの生活の面倒をみていました。しかし、今はそうではありませんから」


 セフィリアが肩を落としてそう説明した。


 聖教会では各街で孤児院を運営しており孤児に最低限度の衣食住を提供するということを行っていた。しかし聖教会とつながりの深い神聖国が戦争に突入したことで予算は戦費に回され各地の教会から資金が引き揚げられている。その影響で孤児院の運営も事実上停止状態であり、寝る場所くらいは提供しているようだが衣食については孤児の自助努力という扱いである。


「わたくしに何かできることはないでしょうか……」


 セフィリアはそう呟き目の前の孤児たちが帰っていくのをただ見送ることしかできなかった。

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