4 決別
――バタン
勇馬が部屋から出てドアの閉まる音が響き静寂が訪れた。
「それで本日はいったいどのようなご用件だったでしょうか?」
「うん、まずはレスティでのお役目、よくやってくれたね」
ガウディ司教が念頭に置いているのはレスティの街への魔物の大群が進行してきた際の聖教会での働きについてである。レスティでは大司教以下聖教会の枢要メンバーがことごとく逃げ出して行方不明となっている。聖教会が領主の委託に応えることができたのはセフィリアの活躍があったことは聖教会本部にも情報として伝わっている。
「勿体ないお言葉ですわ」
「きみにはその活躍に見合った地位を与えるということも検討されていたんだがきみが聖教会を辞めるという話で立ち消えになってしまってね。急進派は胸をなで下ろしたようだが私は合点がいかなくて事情を確認したかったんだよ」
聖教会では二つのグループが内部で対立していて勢力争いを繰り返していた。
1つは人族も人族以外の亜人もみな平等であるという考えを持ち差別を否定する穏健派。
そしてもう1つは人族至上主義で亜人は人族よりも劣る存在であると差別を肯定する急進派である。
これまでの聖教会の主流派はもとより現教皇も穏健派であり、このガウディ司教も穏健派に属していた。
一方、現在勢力を急激に拡大しつつあるのが急進派である。
急進派は聖教会の象徴でありカリスマでもある聖女の手前、公言はしないものの女性を男性よりも下のものとして蔑む考えをも持っているとも言われている。
「事情ですか……」
「きみの主への信仰は大変熱心ということを私も知っているからね。まさかきみが聖教会を辞めるということは信じられなかったというのが正直なところかな?」
「心境の変化と申しましょうか、主への信仰は必ずしも聖教会にいなければできないということではございませんので。むしろ本心から信仰されておられる方が聖教会内にいかほどいらっしゃるのかの方が疑問と言えば疑問とも常々思っておりました」
「もちろんガウディ司教は別ですけれど」と口にしながらも辛辣なセフィリアの言葉にガウディは思わず苦笑した。
「それに関しては私も思うところがないわけではない。まあ、きみが信仰を捨てたわけでも信仰心を失ったわけでもないようなのでそれは安心したよ。むしろこれからのことを思えば聖教会から距離を置くということは逆にいいのかもしれないね」
ガウディの言葉にセフィリアは首を傾げた。
しかし、直ぐに他の話題に移ってしまったのでそれ以上その言葉について突っ込んで話をすることはなかった。
「今日はわざわざ来てもらってすまなかったね」
「いえ、お久し振りにお会いできてよかったですわ」
数十分程度の話を終えてセフィリアが部屋から出ようとした際、セフィリアは最後に確認のためにガウディに声を掛ける。
「ガウディ司教、最初にわたくしに同行していた男性を見られて何かお感じになられたことはございませんでしたか?」
「いや……黒髪に黒目とはこの大陸では珍しい風貌の方というくらいで特には……」
「そうですか。申し訳ございません、おかしなことをお尋ね致しました」
セフィリアはそう言って軽く頭を下げると別れの挨拶もそこそこに部屋を出た。
セフィリアが部屋を出ると教会の礼拝堂の椅子に勇馬は座って待っていた。
「セフィリア、もういいのか?」
「ええ、もうこれ以上話すことは何もござませんわ」
セフィリアの表情には若干の気落ちは見られたものの、それを吹き飛ばすほどのすがすがしさを感じる声だった。




