3 帰還
「ユーマ様、ちょっとよろしいでしょうか?」
サラヴィへの道程、野営で就寝前のユーマにセフィリアがそう話し掛けた。
「いいけど何の話?」
セフィリアはレスティに戻ってからの自分のことを勇馬に説明した。
昔馴染みの友人に会うことが中心で辞めた聖教会には顔を出さなかったものの、セフィリアがレスティにいることが聖教会に伝わってしまったらしい。聖教会から使いがやってきてセフィリア宛の手紙を渡してきたそうだ。
「来週、サラヴィに以前お世話になった司教様がいらっしゃるそうなのです。会ってお話したいということでした」
手紙の書かれた日は随分前のようだが指定された日時に余裕を持たせてあったためちょうどサラヴィに戻ると会えるタイミングだった。向こうも時間が合えばということで絶対にという様子ではないとのことだ。
「会いたかったら会えばいいし、会いたくなかったら会わなければいいんじゃない?」
「お世話になった方ですし、会おうとは思っていますわ。ユーマ様にお願いしたいことは一緒に司教様に会っていただけないか思いまして」
「俺が? どうして?」
「話は恐らくどうしてわたくしが聖教会を辞めたのかについてだと思います。わたくしが信仰を捨てたとは思われないでしょうから神の御使いであるユーマ様をご覧いただいた方が理解してもらいやすいかと」
「いや、俺に会っただけでは普通の人は納得できないと思うけど……」
「いえ、ガウディ司教は聖教会の中でも立派な方です。わたくしもユーマ様に初めてお会いしたとき神の気配を感じることができました。ガウディ司教も何か感じるものがあるはずですわ」
ユーマを信仰するセフィリアにはこれ以上言っても無駄だろう。勇馬は仕方なくセフィリアの希望を承諾した。
レスティを出発して3日で無事ダンジョン都市サラヴィに帰還することができた。
今後のことも未定であったため、取り敢えずこの日は宿をとることにした。
「5人だから2人と3人でいいかな?」
宿には1人部屋から3人部屋までしかない。
男女であることを考えれば1人部屋と2人部屋を2つということも考えられるが費用の面からそれは却下した。部屋の割り振りは勇馬が決め、勇馬の相部屋は安心安定のアイリスである。エクレール、クレア、セフィリアの3人で1部屋をとった。
それから数日間、勇馬はサラヴィの付与魔法ギルドに顔を出し、ギルドに溜まりかけていて仕事をまとめて片付けたり、パーティーメンバーでダンジョンに潜ってバフ屋をやったりした。久しぶりの営業を待ちわびていた客が殺到し一稼ぎすることができた。
そしてセフィリアが知己のガウディ司教と会う日になった。
この日は朝食後、勇馬はセフィリアとともに宿を出て待ち合わせ場所となっているサラヴィにある教会へとやってきた。
「いまさらだけど俺が同席してもいいのか?」
「ユーマ様には大変ご無礼ではございますがわたくしの護衛ということにしておいていただければと」
「ホントはセフィリアの方が護衛なんだろうけどな」
勇馬は肩をすくめるとセフィリアの護衛を装うためセフィリアの周りを警戒するふりをしながら教会の中へと入っていった。
「こちらへどうぞ」
教会へ入って近くにいたシスターに用件を告げると奥の部屋へと案内された。
部屋へと通されてしばらく待つと細身で長身の中年の男が入ってきた。服装からそこそこ地位のある立場の者であることが勇馬の目から見ても理解できた。
勇馬はセフィリアが椅子から立ち上がったのを見て一拍遅れて椅子から立ち上がった。
「ガウディ司教、大変ご無沙汰しております」
「遠路お呼び立てして申し訳ない。きみも健勝なようで何よりだよ」
男は頭を下げるセフィリアに目じりにしわを作って微笑みながらそう言った。
「ところでそちらの方は?」
ガウディが勇馬に視線を送る。
「こちらはわたくしの護衛をお願いしている方ですわ。女の一人歩きは危険ですので」
いけしゃあしゃあと涼しげにそう言ったセフィリアはガウディが勇馬に対してどのような反応を示すのか期待を込めて観察した。
「話の内容からできれば2人だけの方がありがたいな。少し席を外していただくことはできないだろうか?」
ガウディはセフィリアと勇馬双方に視線を送りながら確認を求めた。。
勇馬は軽く頷きセフィリアに視線を送るとセフィリアは「わかりましたわ」と応じたため、勇馬は部屋の外で待つことになった。




