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 エクレールとクレアをパーティーに加えた勇馬たちはラムダ公国行きの馬車に乗り込みレスティの街をあとにした。


 馬車には御者の他は勇馬たち5人だけで貸切状態である。


 今回の便を利用するにあたって護衛は不要であるという条件で馬車を手配した。


 馬車側も乗せる客がレスティでも有名な冒険者であるエクレールにセフィリアといった面子であったことから護衛は不要であるという条件に納得のうえで手配してくれた。この様に形の上では護衛がいないという便であったために一般客が利用を敬遠したのか、たまたまそうなったのかはわからない。


 馬車側も客が少ない場合はスペースを荷物の運搬に利用するためあまり損は出ないようだ。むしろ荷物を中心に考えれば腕利きの冒険者が乗るこの馬車は護衛費用なしで荷物を運搬できることになる。


 いずれにしても他に客がいないということは気が楽ではある。あくまでも一般的には。

 

 そして一般的ではない例が正にここにあった。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 勇馬の耳には外から聞こえる『がたごとがたごと』という馬車が進む音だけが聞こえる。


 馬車の中では誰1人口を開く者はいない。


 勇馬の奴隷となり新たにパーティーに加わったエクレールとクレアはパーティーの新入りという立場であり軽々(けいけい)に発言しにくい状態であった。


 一方、最古参のアイリスにとってはクレアもエクレールも自分が師事したことのあるいわば師匠である。

 エクレールのことを痴女だとかなんだとか言ったことはあるがそれは上辺うわべだけのものであり、魔法使いとしても先輩冒険者としてもその実力はアイリスも認めるところである。尊敬とまではいかないまでもそれに準ずる感情は持っていた。


 残ったセフィリアとしては、古くからの既知であるエクレールやクレアが本当に困っているときに力になってあげられなかったという負い目があった。

 大人しく、純朴であったエクレールが例の事件後に吹っ切れて痴女化したときには助力するどころか小言を言ってしまいそれからお互い距離を置くようになっていた。それがこうして同じパーティーのメンバーとして顔を合わせることになったもののどのような関係を築けばいいのかわからなかった。


 全くの見ず知らずの関係であった方がとっかかりやすかったという構造がこのパーティーにはあった。



(これはよくない空気だな)



 自称鈍感系ではない空気の読める男である勇馬はいつもとは違う重苦しい空気を察した。



(これは俺がリードしないといけない場面だな)



 そう結論付けた勇馬は自分が率先して話し掛けることにした。


「そういえばエクレールとクレアはアイリスが奴隷ということを知ってたの?」


 取り敢えず、自分たちが奴隷であるということに萎縮しないようにという考えからアイリスも奴隷であるということを確認の意味も含めてきちんと伝えることにした。


「知っていたというほどではないですけど多分そうだろうとは思っていたわ」


「主殿とは単なる主人と従者の関係ではないだろうとは感じてはいました。しかし奴隷という確信まではありませんでした」


 奴隷ということで2人とも畏まった話し方をするがその違和感に勇馬は居心地悪く感じた。


「これを機会に伝えておくけどアイリスも奴隷だし全く自分を卑下する必要はないからね。他人にはわざわざ俺の奴隷であるということを言わなくてもいいし、何かあったら護衛とでも雇われの身とでも従者とでも言ってもらっていいから」


「ご主人様、私たち3人はそういうことで結構ですが、セフィリア……さんはどういう立ち位置で考えたらいいですか? ご主人様の客分としてご主人様と同格として接するべきでしょうか?」


「わたくしは御使い様のしもべ。いわばみなさんと同じ奴隷の様なものですわ。みなさんがわたくしにへりくだる必要は一切ありません」


 セフィリアはきっぱりとそう言い切った。

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