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18 新たな主従


「……よく聞こえませんでしたのでもう一度おっしゃっていただけますでしょうか、主様あるじさま?」



 一切の抑揚のない声が無音の部屋に響いた。


 宿の自室。この部屋には今、勇馬とアイリスの2人だけである。


「ええと、エクレールとクレアが俺たちのパーティーに加わることになった」


「いえ、そこではなくその前におっしゃたことです」


「……エクレールとクレアが俺の奴隷になりました」


「……」


「……」


 アイリスは勇馬に視線を向けると能面の様な無表情から一転満面の笑みを浮かべた。ただし目だけは笑っていない。


「説明していただけますね?」


 アイリスの冷気を帯びた声に勇馬の背筋は凍り、勇馬はエクレールとクレアの事情、そして2人ともを奴隷にすることになったいきさつをアイリスに説明した。


「は~、わかりました。そもそも奴隷である私は主様あるじさまにあれこれ文句を申し上げる立場にはありません。ペットにでもなんでも好きにされればいいではありませんか」


 アイリスは勇馬の異常さを知っているため勇馬はそういうものだと気持ちを落ち着けることにした。

 しかし、これまで自分だけが勇馬の「所有物」であったのが、そうではなく最早いくつかある中の1つに過ぎないことに心がもやもやするのを感じた。



 勇馬はセフィリアとも2人だけで話をした。


 セフィリアは勇馬がエリクサーを手に入れたこと自体を知らなかったため、エリクサーを入手していたということに大きな驚きの表情を浮かべた。エクレールたちを奴隷にすることになったという事実よりもそちらの方に驚いていたという様子である。


 エリクサーの出所でどころについては「神の御業によるゆえ一切の詮索はまかりならん」と言ってある。セフィリアは「御意にございます」と勇馬に平伏してしばらく立ち上がらなかったことからおそらくは大丈夫だろう。



 エクレールとクレアには今後勇馬の奴隷として勇馬のパーティーに加わってもらうこと、そしてこの街を出ることについて伝えている。2人からは数日の猶予で問題ないということだったのでその時間でこの街を出るための準備をしてもらうことになった。エクレールは元々冒険者として宿を転々としていたため荷物の準備自体は大したものではない。しかし、臨時で度々クエストを一緒にしていたパーティーの面々には挨拶をして回るという忙しさがあった。

 ただエクレールはクレアが怪我をした一件以降は固定のパーティーには所属していなかったのでその点は都合が良かった。


 一方、クレアは早速エリクサーを使い足の障害を完治させた。それからは不要な物を売ったり処分したりするなど忙しい時間を過ごした。

 しかし、これまで思う様に動かせなかった自分の足で自由に動かし、軽快な身動きができる喜びから何も苦には思わなかった。そして、今後は勇馬の奴隷ではあるとはいえ冒険者の身分で活動することができるということが何よりも嬉しかった。




 エクレールとクレアが旅立ちの準備を終え、翌朝にはレスティを立つこととなったその晩、エクレールとクレアは勇馬たちの泊まっている宿に来ていた。  

 クレアも自宅を引き払ったのでこの宿にエクレールと2人部屋をとっている。


 勇馬は夕食後、エクレールとクレアの部屋に呼ばれ、2人の部屋へと入った。


 エクレールの服装は以前の様な痴女めいた服装ではなかった。

 首元まで詰められた簡易なドレスでスカートも足のくるぶしくらいまでの長いものだ。ところどころレースやフリルが施されており、いいところのお嬢様が着ているような装いである。

 クレアは騎士が着ている様な服装で、下はパンツスタイルである。どこかの式典に着て行ってもおかしくはない。

 2人の正装に軽い気持ちでやってきた勇馬も若干緊張してしまった。


「2人とも改めて明日からよろしく。立派なあるじではないかもしれないけど支えてもらえたら助かるよ」


 勇馬は既知の2人への改まった挨拶に思わず照れを隠すことができず、視線を2人から思わず外してしまった。

 しかし、勇馬は2人に直ぐに視線を戻すことになる。

 エクレールは両膝を床について正座をし、クレアは片膝だけを立てる形で跪いた。


「ちょっ、2人とも……」


 勇馬は思わず2人を立ち上がらせようとしたが彼女たちの纏う空気からそれは野暮なことだと思い直し2人の行動を見届けることにした。


「ご主人様、いただいた御恩は一生を掛けてお返し致します。末永くよろしくお願い致します」


 エクレールは床に正座した姿勢から三つ指をついて床につくほどまで深々と頭を下げた。背筋が伸びた美しい姿勢は以前に勇馬が抱いていた彼女のイメージを払しょくする気高いものであった。


主殿あるじどの、私は主殿あるじどのに絶対の忠誠を誓い、この身が果てるまで、主殿あるじどのの盾となり矛となり御身のために尽くすことを誓います」


 クレアは跪いたまま頭を下げ、まるで騎士が主人に誓いを立てるかのようにそう口上を述べた。


 おちゃらけた言葉でこの空気を壊すことは2人の覚悟を侮辱することだ。


 そう考えた勇馬はいつもとは違う自分を演じることにした。


「2人とも、これからよろしく。頼りにしている」


 勇馬が毅然とした口調でそう言うと、2人は再び頭を下げた。


 こうして勇馬は新たに2人を仲間に加え、再びダンジョン都市サラヴィへと戻ることになった。

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