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17 大団円

「エクレール、きみが奴隷になる必要はない!」


 突然のことに唖然とするエクレールとオルフェンたち。勇馬は予定どおりであるため平静を保っている。


「クレア、どうしてここに?」


 エクレールの疑問にクレアは視線を勇馬に向けることで応えた。


「ユーマ、あなたどういうつもり? クレアのことはあなたも知っているんでしょう?」


「直接聞いたわけではないけどね。でもクレアがそれを頼んだの? 本当にクレアがそれを望んでいると思う?」


「エクレール、わたしはこれまできみが私の生活を助けてくれたことには感謝している。正直、自分の運命を呪ったこともある。でもわたしが助かるためにきみが不幸になってもわたしは心の底から良かったと思うことは絶対にない。わたしのことできみの心を縛ってきたように今度はきみがわたしの心を縛るのかい?」


「……」


 クレアの言葉にエクレールは言葉を継げることができなかった。


「もしもきみがどうしてもそのエリクサーをわたしのために手に入れたいと言ってくれるのならわたしがきみの代わりに奴隷になろう。なに、身体が治ることを思えば大したことじゃない」


「何言ってるのよ! それじゃあ足が治っても意味がないじゃない! それにわたしが何もしないというんじゃあケジメにならないわ」


 2人は自分たちの思いのたけをぶつけ合う。



 一瞬の静寂が生じたとき勇馬がゆっくりと立ち上がった。


 

 クレアから思ってもいなかった言葉が出てきて一瞬混乱してしまったが、勇馬は2人のヒートアップが一瞬収まったタイミングを狙って自らに注目を集めた。


 エクレールとクレアからだけでなく2人の中年の男たちからも勇馬に視線が注がれる。


 勇馬は満足そうにその場にいる者たちの顔を見ながらゆっくりと口を開いた。


「素晴らしい! お互いがお互いを思いやるお2人の友情。そして自分を顧みない美しい心。私は大変感服致しました。お2人の友情とその心粋こころいきに敬意を表してこのエリクサーはお2人に無料ただで進呈致しましょう!」


 元々このエリクサーはマジックペンで作った元手のかかっていないものだ。強いて言えば瓶の代金がかかった程度だ。


 作ろうと思えばまたいくらでも作ることができるものだ。


 誰一人として身動きする者はおらずその場を静寂が支配する。。


 勇馬は内心「決まったな」と思いながら、どや顔でエクレールとクレアに視線を送った。




「「「「いや、それはない!」」」」



「ええっ!?」



 これにて一件落着、大団円でエンディングのはずがまさかのその場にいる全員からの全否定。


 話の当事者ではないオルフェンと鑑定士までもが口を挟んできた。


「ユーマ、わたしはきみから無料ただでこんな貴重なものをもらう理由はない」


「そうよ。それじゃあ結局わたしは何もしていないのは一緒じゃない。それじゃあ、償いにならないでしょう?」


「ユーマ様、ただ今のご発言は商人として看過しかねます」


 オルフェンの隣にいた鑑定士もその発言に頷いている。


 勇馬は表情こそ変えないが内心は混乱の極致にあった。そして溜息交じりに言う。


「じゃあ、一体どうしろと?」


「だからわたしがユーマの奴隷になるって言ってるでしょ? 他の誰ともわからない奴ならごめんだけどユーマのことはよく知ってるもの。ユーマにだったらいいわよ!」


「いやっ、エクレールは自分の好きな人と一緒になるべきだ。その点わたしはエクレールのように女らしくもないし、療養をしている間に婚期も逃してしまった。元々男性との付き合いもないし足が治ったとしても誰ともそういう関係にはならない可能性が高い。やはりわたしがユーマの奴隷になった方がいいだろう」


 エクレールに負けじとクレアもそう言い返した。


「わたしがユーマのものになりたいって言ってるんだからいいじゃない! わたしは別に嫌々じゃないし、むしろちょうどいいくらいだから!」


「それを言うならこっちもだ! ユーマの従者であるアイリスを見ればあるじとしての器はわかる。そんなあるじに仕えることができるのであれば奴隷だろうとなんだろうと関係ない」


 着地点が見当たらない言い争いが続き勇馬がどうしたものかと考えていると、傍でその様子を見ていたオルフェンが溜息をつきながら口を挟む。


「でしたらお2人とも奴隷になられてはいかがですか? もともとエクレール様お1人ではレートが全く釣り合っていませんでした。クレア様のことは存じ上げませんが仮に奴隷としての価値をエクレール様と同額と評価させていただいたとしてもそれでもまだ足りないくらいですので」


「それよ!」「それだ!」


「ええっ!?」


 オルフェンの提案に賛同を示す2人の女性。突然の急展開に理解が追い付かない勇馬。



「では、話がまとまったところで奴隷契約に入りましょう」


 勇馬が茫然としている間にオルフェンがてきぱきと契約手続きを進める。流石はリートリア辺境伯領の領都で支配人を任されるだけはある。その仕事ぶりは手早くかつ的確であった。


 勇馬が我に返ったときには2人との奴隷契約は既に終わった後であった。

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