13 接触
「じゃあ、ここでお別れだね。ユーマさんたちがまたサラヴィに戻るときには見送りに行くから」
シェーラとケローネとはレスティの街に着くと直ぐに別れることになった。
あまり時間を掛けると却って別れづらい。
冒険者は一期一会。
そうは思っていても長い間一緒に過ごしてきた者たちとの別れはやはり寂しいものであった。
彼女らは以前にも泊まっていた宿に宿泊するとのことでその場所は勇馬も知っているのでいつでも会うことはできるがそれはそれである。
一方、勇馬たちも以前に宿泊していた宿に宿泊することにした。以前は付与魔法ギルドの出張扱いで宿泊料はギルド持ちだったが今度は当然のことながら自分持ちだ。ちなみにセフィリアの強い希望で3人部屋をとることになった。一人当たりの宿泊料が割安なのでその点ではありがたいが勇馬としてはアイリス以外の女性と同じ部屋というのは少し落ち着かない。
「ところでユーマ様、わたくしはレスティに戻られる理由を伺っておりません。いったいどういったご用事なのでしょうか?」
「私も聞いてませんでした」
2人にそう言われて勇馬は何も説明していないことを思い出した。
セフィリアはクレアとエクレールがエリクサーを必要としていることを知っているが、勇馬がまさか当のそれを持っていることは知らないでいる。アイリスはその逆だ。
「まあ、上手くいったらきちんと話すから。この街ではちょっと1人で行動させてくれないかな。心配かもしれないけどこの街だったら多分大丈夫だから」
一応勇馬はマジックペンを使って変装することができる。
いつもであれば勇馬の護衛の必要性を強く主張するアイリスは、自身が勇馬の変装に気付けなかったことから勇馬について回状が回っている可能性を強く言うことはできなかった。
それでもならず者に絡まれる可能性もなくはなかったがアイリスたちと一緒にいることで逆に絡まれたり勇馬の存在を気取られる可能性があると言われればそれ以上のことは言えなかった。
2人はしぶしぶながら勇馬の言葉に頷いた。
実際に行動するに先立って、勇馬はセフィリアに冒険者ギルドに行って自分に回状が回っていないかを確認してもらうことにした。
勇馬としてはエクレールたちに連絡をとる手段は冒険者ギルド経由しかない。
もしも冒険者ギルドに自分の回状が回っていればセフィリアに事情を説明してエクレールたちに連絡をとってもらうつもりでいた。
「勇馬様、冒険者ギルドには勇馬様の回状は回っていない様子でした」
セフィリアが宿に戻ってきてからそう勇馬に伝えてきた。
「それならちょっと行ってくるよ。それからアイリスには……」
勇馬はアイリスがサラヴィのダンジョンで冒険者として稼いだお金からいくらかを取り出し、アイリスに渡した。
「これはアイリスのだから自由に使ったらいいよ。セフィリアももし時間があったらアイリスに付き合ってあげてくれないかな?」
「ええ、構いませんわ。勿論アイリスさんがお嫌でなければ」
「嫌なんてことはありません。セフィリアさん、一緒に行きましょう」
メルミドならともかく、この街ではアイリスに友達はいない。
勇馬は以前にしたマジックペンによる変装をしてから宿を出るとまっすぐに冒険者ギルドへと向かった。
道中、いつもはチラチラと見られることもある自分の黒髪黒目が気にされることはなかった。
勇馬は悠々と道を歩いて冒険者ギルドに着いた。
冒険者ギルドに入る直前、勇馬はマジックペンで色を変えていた自分の髪の毛の色と目の色を元に戻した。キャップを付けたままのペン先を当てるだけで髪の毛の色と目の色は元の黒色へと戻った。
冒険者ギルドの受付嬢は以前、勇馬が何度か依頼を出したことがあったため勇馬の顔を覚えていた。
「あっ、お久しぶりです。またご依頼ですか?」
まだそこまで時間が経っていないということもあり、以前と同じ感覚で対応してくれることに若干有難さを感じながら勇馬は首を横に振った。
「エクレールさんとクレアさんに連絡を取りたいんですが」
2人とも以前に勇馬がアイリスの家庭教師を依頼したというつながりもあるため、受付嬢は特に疑問を抱かず連絡を取ってくれることになった。
エクレールはちょうど護衛のクエストを受けていてそろそろこの街に戻って来る予定であるとのことだった。勇馬はエクレールが帰ってきたら自分のとっている宿に連絡して欲しいとお願いしてギルドを出た。
そしてエクレールが戻ってきたと連絡があったのが翌日の夕方のことであった。
勇馬はエクレールと会いたいということを伝えると翌日にエクレールの指定した場所で二人で会うことになった。




