9 ポーション作り
勇馬は自分の部屋に備え付けの椅子をアイリスに勧め、自分はベッドに腰を掛けた。
「実は回復魔法が使えるようになったんだ」
「……えっ!?」
一瞬遅れてアイリスが驚きの声を上げた。
「ですが主様。ほんのこの前、補助魔法を覚えられたばかりではないですか」
「それから回復魔法のおまけでポーションを作れるようになったんだ」
「一体何をおっしゃっているのか意味がわかりません」
アイリスの言うことももっともである。
回復魔法はあくまでも魔法であり魔法使いの領域である。
そしてポーションを作るというのは薬師もしくは錬金術師の領域である。ポーションを作るためには材料を集め、加工しなければならない。しかし、勇馬の手元には先ほど買った瓶しかない。
「まさか主様、昨日の衝撃的な体験でついに気が触れてしまわれましたか。申し訳ございません、私という護衛がついていながら主様をその様に目に遭わせてしまうだなんて。でも大丈夫です、他の誰もが見放しても私は主様に最後までついていきます。といいますか私は奴隷ですのでついていくしか選択肢がありません」
「アイリスって結構言うようになったよね。これはもう主としてお仕置きしても許されるよね。まあ、それは後にして」
勇馬はアイリスに瓶を洗ってくるように指示を出した。
その間にマジックペンを顕現させて魔力を込めてみた。マジックペンは一応ステルスモードにして勇馬以外の目からは見えないようにしている。
「主様、瓶を洗ってまいりました」
瓶は洗われた後、清潔な布できれいに水気を拭かれている。
「よし、じゃあポーションを作ってみるか!」
勇馬はそう宣言してマジックペンの蓋を外すと瓶の口の上でペン先を下にし、ペンの腹を押してみた。するとペン先から液体がぽたぽたと滴り落ちてくる。
アイリスの目からみれば勇馬の手の辺りの何もない空間から突然白色の液体が現れたのだから驚きもするだろう。
マジックペンから出てきた白色の液体はさらさらと瓶の中を充たした。
「よし、できた!」
勇馬はそう言って瓶の蓋を締めた。
今まで勇馬が店で買ったポーションは初級ポーションで色は青色をしていた。
中級、上級となれば色が変わるらしいので初級よりも上のポーションに違いないはずだ。
勇馬はこれが中級か上級のポーションのどちらかであると全く疑わなかった。
そのため事前に新しく取得した抽出液鑑定のスキルを使うことはなかった。そもそもそのスキル自体が頭から抜け落ちていた。
「アイリス、悪いけどもう1回外に行くよ。このポーションが上手く売れたらそのお金で帰りにケーキでも食べて帰ろう」
時間はちょうどおやつの時間に差し掛かろうという時間だ。
勇馬は「ケーキ、ケーキ」と浮かれ気分のアイリスを伴って再び街へと出掛けた。
「そういえばポーションってどこで買い取りしてくれるんだ? アイリス、知ってる?」
「そうですね~、道具屋で買い取りしてもらえるのではないでしょうか?」
ポーションを売っている場所は道具屋以外にも冒険者ギルドやダンジョン入口の露店でも売っている。しかし買取をしてくれる場所、特にこれまで何の取引もしたことがない者からも買ってくれる場所についてはよくわかっていなかった。
取り敢えずさっき瓶を買った道具屋に持ち込んでみることにした。
「こんにちは~、すみません。ポーションを作ったんですけど買取りってしてもらえますか?」
「ポーションの買取ですか? ええ、拝見させていただいてちゃんとしたものであればうちでも買い取らせていただきますよ」
道具屋の女将さんがそう言ってくれた。
「では、これをお願いします」
そう言って勇馬が取り出した瓶を見て、その中の液体の色に一瞬女将さんは訝しげな表情をした。しかし、気を取り直して勇馬から瓶を受け取り鑑定スキルを発動した。
「!?」
女将さんはそれまでの表情を一変させると目を見開いて勇馬を見た。
そしてもう一度瓶の中身を鑑定してその結果を確認すると勇馬に瓶を返した。
「お客さん、すみませんがこの商品はうちでは買い取れません」
「えっ! 何でですか? ちゃんとポーションではなかったですか?」
神からもらったマジックペンで作ったものである。
そのため失敗なんかするはずがないと勇馬は思っている。あり得るとすれば自分の魔力が足りなくて、ポーションの最低ランクにも満たなかったということだろう。
しかし、女将さんの口から出てきたのは勇馬の予想とは全く違ったものだった。
「お客さん、これはポーションではありません。エリクサーです」
「はっ?」
「はい?」
勇馬と勇馬と女将さんとのやりとりを見ていたアイリスが揃って間の抜けた声を出した。
「もう一度言いますよ。こんな高額商品はうちでは買い取れません。どうぞ他のお店に持って行って下さい」
からかわれたと思ったのか道具屋の女将さんはちょっと機嫌が悪かった。
「すっ、すみませんでした~」
勇馬は瓶を返してもらうと小声でそう言って急いで店を出て行った。
(これはとんでもないものが出てきたな。それにこれがあれば…)
勇馬は2人の女性の顔を思い浮かべた。
なお、勇馬が「今日はもう家に戻ろう」とアイリスに言うとアイリスが一瞬寂しそうな顔をしたのを勇馬は見逃さなかった。
(……ケーキを食べたかったんだろうなぁ)
そう思った勇馬は帰る途中でみんなの分も含めてケーキを買って帰った。
ちなみに夕食の後に出されたデザートのケーキを見てケローネから「何かいいことがあったのですか」と聞かれた勇馬は「まあね」とだけ答えた。




