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6 ダンジョンマスター

 本日2話目です。

 ご注意下さい。

 シルバーウルフの身体が消滅して魔石とドロップアイテムが出てきても誰も口を開かなかった。



(あまりにも今回の犠牲は大き過ぎた)



 ケローネの出血は止まっているがその激しい痛みからか気を失っている。


「……次の階層への階段が現れませんわ」


 いち早く正気を取り戻したセフィリアが異常に気付いた。


 いつもであればフロアマスターを倒せば次の階層につながる階段が現れるはずだ。


 そしてその階段を降りてすぐの部屋にはダンジョンの入口に繋がる転移魔法陣があり、そのまま次の階層に降りるか一旦ダンジョンから出るかを選ぶことができる。






「流石に今のを見せられるとこのまま黙って帰らせるわけにはいかないかな?」


 いつの間にか部屋の一角に1人の男が立っていた。


「あなたは一体……」


 勇馬は目の前の男にそう問いかけた。


 男は勇馬がこの世界にやってくる際に白い世界で会ったこの世界の管理者と同じような白い貫頭着を着ていた。


 その背中には白い羽の様なものも見える。


「私はこのダンジョンを管理する者、つまり管理人だね。きみたちの言葉で言えばダンジョンマスター、とでも言うのかな?」


 思いも寄らない言葉に勇馬以外の3人は驚きの表情を浮かべる。


 しかし、この世界の管理者である神にも会ったことがある勇馬としてはその限りではない。


「その管理人さんが私に一体何のご用でしょうか?」


 勇馬は笑顔で応えるがその目は笑っていない。


「う~ん、そうだねぇ。率直に言うけどきみのその力、ちょっと困るんだよね。このダンジョン内のパワーバランスを壊すっていうの? きみにはこう言った方がいいかな。ゲームバランスが崩れるって」


 勇馬は目の前の男が言わんとすることを直ぐに理解した。


 恐らく目の前の男はこの世界の管理者、すなわち神と何らかの関係がある者なのだろう。


 そして目の前の男は何らかの目的があってこのダンジョンの管理、つまりダンジョンマスターをしている。そして勇馬のマジックペンを使った力がその目的にとって障害となり得るということを。


「私は別に信じていなかったんですけれどダンジョンが人間に対する贈り物であり試練でもあるという説があるそうです。もしそうなら私がやっていることは度を過ぎればお邪魔になるということでしょうか?」


「へー、流石に頭がいいね。さすが異世……、いやこの場ではまずいか。まあ、その様に理解してもらって構わないよ。詳しいことは言えないけど私がきみに伝えたいことはそのとおりだからさ」


 男は勇馬以外のメンバーに視線を向けながらそう言った。


「もし断れば?」


「きみたちを生かしてこの部屋から出すわけにはいかない」


 勇馬の背中に冷たいものが流れた。


 恐らく目の前の存在には何をしてもかなわないだろう。


 だとすると目の前の男に受け入れてもらえるぎりぎりのラインを見極める条件闘争がもっとも賢い選択になる。


 そして目の前の男が本当にダンジョンマスターであるならばこのダンジョン内で入手可能なアイテムを融通してもらうことも可能なはずだ。


 勇馬は後ろで気を失っている右腕を失ったままのケローネにちらっと視線を送った。



「わかりました。それではしてもいいこと、してはいけないことについて詳しいお話を聞かせていただけませんか?」


 勇馬は一世一代の大勝負に出ることにした。





 ダンジョンマスターを名乗る男から示された条件は3つ。


 いずれもこのダンジョン内では、という枕詞まくらことばがつくが下記のとおりである。


 ① 常識を超えた付与魔法及び補助魔法を他のパーティーの冒険者に使用しないこと。常識の範囲は普通の魔法使いが使えるレベルの補助魔法。詳細については別途協議


 ② 勇馬自身や勇馬のパーティーメンバーに使う付与魔法や補助魔法について制限は設けないがダンジョン攻略の最前線に立つことは禁止。ダンジョン攻略の最前線に立つ場合は常識の範囲内での付与魔法・補助魔法に制限すること。


 ③ 現時点で予想できない事態となった場合、改めて協議に応じること



「一応言っておくけど、いくつものパーティーを合体させて何十人もみんな自分のパーティーのメンバーですと言うのは脱法だから駄目だよ。例えば今のこのメンバー、もちろん将来多少の入れ替わりはあるだろうけどそういったレベルであれば問題ないよ」


 今回、管理者に制限されたことはこれまでやっていた商売を制限するというよりもこれからさらに拡大しかねなかったものを事前に制限しておいたということのようだ。


 何よりも今回のケローネの一件で勇馬がふっきれて今後惜しみなく力を使ってダンジョン攻略の最前線を爆走しかねない状態だったので管理者である男が慌てて出てきたというのが実態であった。


「こちらが条件を付けることができる立場にあるとは思っていませんが、こちらも自分の力を制限するのです。いくらか補償をいただけますと嬉しいのですが……」


「私にとってはダンジョンのバランスが崩れないのが一番だからね。きみは最初からこちらの話に素直に応じてくれたし多少のことであれば聞いてあげるよ」


「では後ろの獣人の子にエリクサーを融通していただけませんか? 流石に腕を失ったままというのでは……」


「エリクサー? いいよ」


 管理者の男はいつの間にかケローネの側まで移動しいつの間にか手にしていた瓶の蓋を開けてケローネの傷口に掛けた。


「エリクサーは体に掛けても部位欠損は治るからね」


 勇馬を含めたみんなが固唾を飲んでケローネの様子を見守ると、ケローネの傷口から光が生じ、瞬く間に失われた右腕が復活した。


「今はまだ気を失っているけどじきに目を覚ますよ」


 管理者の男はそう言って帰っていこうとする。


「あのっ、そのエリクサーをもう1ついただくことはできませんか?」


 勇馬はケローネ以外にエリクサーを必要としている人物を思い浮かべた。


「う~ん、申し訳ないけどそれはできないかな」


 男はそう言うと霞の様に姿を消した。


 去り際の「きみにはもう必要ないしね」という声は勇馬には届かなかった。






「あっ、次の階層への階段が現れましたわ」


 この日は階段を降りると早々にダンジョンから脱出することにした。


 パーティーハウスに戻るまでの間、誰も口を開くことはなかった。

 本作はご都合主義100%でできています。

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