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5 油断

 本話は「R15」「残酷な描写あり」の内容となっていますので、苦手な方は回避をお願いします。

 次話も関連しますので、回避された方は次々話からお読み下さい(次々話の前書きにまとめを書く予定です)。

次々話は2月11日(建国記念日)に投稿する予定です。


「シェーラさん、今ですわ」


 15階層のボス部屋にセフィリアの声が響いた。この部屋のボスであるシルバーウルフの攻撃をフライパンで防ぎ動きを止めたところでシェーラの剣がシルバーウルフに突き刺さる。


 しかし、致命傷を与えるまでには至らない。


「ファイヤーアロー」


 アイリスが2人の様子を見ながら詠唱を終えた魔法を放った。それなりのダメージを与えているはずであるがまだまだ弱った様子を見せない。


 5階層から15階層はDランクパーティー推奨エリアである。


 この15階層をクリアすれば16階層からのCランクパーティー推奨エリアへと進むことができる。


 Cランクと言えば一人前の冒険者として扱われるレベルであり、このダンジョンではこの15階層を突破することが一人前と言われる冒険者たちの登竜門となっている。



(まあ、俺は冒険者じゃないしなぁ)



 一応パーティーのメンバーである勇馬もボス部屋の端で1人みんなの戦いを見ている。


 ボス部屋に入ることができるのはそのパーティーのメンバーのみであり、戦闘中は中からも外からも戦闘が終わるまでは出ることはできない。


 非戦闘員であるユーマも本音ではボス部屋に何て入りたくはないのだが入っておかないと次の階層に一緒に進むことができない。そのため仲間を信じてボス部屋に同行している。



(しかし、ちょっと雲行きが怪しいな……)



 決して戦力が劣っているわけではないはずだが決定打がない。


 ここは何かした方がいいのだろうか。


 常識を無視した武器への付与や補助魔法を使ったドーピングをすればこの戦闘をクリアできなくはないだろう。


 しかしそれが本当にアイリスたちのためになるのかという思いがある。


 勇馬がいろいろと思い悩んでいると一瞬の隙を突かれたシェーラがシルバーウルフから攻撃の直撃を受け、壁に叩きつけられた。


「シェーラ!」


 ケローネが叫んでシェーラに駆け寄った。


 ケローネは水属性が得意な魔法使いであり、水属性にも光属性ほどではないが簡易的な回復魔法がある。ケローネはシェーラに回復魔法を使うために彼女の元へと急いだ。


「ダメ! ケローネ!」


 大事なシェーラのことで周りが一瞬見えなくなったケローネはシルバーウルフの動きを全く見ていなかった。


 迂闊な動きにアイリスが叫び声を上げるがケローネの耳には届かない。


 シルバーウルフはそんなケローネに狙いを定めて風魔法を放つ。


「えっ……!?」


 ケローネはシルバーウルフが放った風魔法の直撃を受ける直前そう声を漏らした。


 勇馬の目にはその瞬間がとてもゆっくりに見えた。


 シェーラに駆け寄るケローネの右腕にシルバーウルフが放った風魔法が直撃する。


 慌てて無防備となったところに魔法による攻撃を受けたため一切魔力防御レジストできなかったことは致命的なミスだった。


 その風魔法はケローネの右腕を切断し、その腕は力なく宙を舞ってそしてゆっくりと床に落ちた。



「ああっっ! あああぁぁぁぁぁ~~~」



 ケローネは地の底から這い出るような絶叫を上げて床に倒れ伏した。切断された右腕からは血が噴き出している。


「っ!? いけません!」


 セフィリアは直ぐにケローネの元へと駆け付けると自前の上級ポーションをケローネに使い、回復魔法を重ね掛けした。その間、アイリスがシルバーウルフに攻撃を仕掛け、セフィリアたちに攻撃が向かないよう牽制を続けた。





 目の前のことなのにまるで他のどこかで起こっている様な感覚。夢や物語の中での架空の出来事の様な感覚。


 しかし次の瞬間、それが現実であり実際に目の前で起こっていることを否が応でも思い知らされる。


 勇馬は自分の身体の芯が冷えるのを感じた。


 自分は元々アイリスたちに危ない目に遭って欲しくはなくてダンジョンに入るのにも安全第一でと口では言っていた。


 しかし今は自分が使える付与魔法や補助魔法によって本気でやれば簡単に敵を倒すことができると半ば舐めるようになっていた。


 その結果、みんなの実力向上だとか過剰な力に頼らないためだとか耳障りのいい理由を付けて常識的な範囲内でしか力を使っていなかった。


 それがどうだ。


 たった一瞬のことでケローネは右腕を失った。


 応急処置により傷は塞がり出血は止まるかもしれないがもう右腕は失ったままだろう。


 エリクサーでも使わない限りケローネは一生そのままだ。








「あー油断した油断した。いつの間にか舐めプをしていたんだよな。それはやっぱり失礼だよな」


 このダンジョンは誰が作ったものでどういう意図で作られたのかは知らない。


 しかし、自分の持てる力を全て出して全力で臨まなければ失礼というものだろう。それがいかにこの世界の常識を超えた力であったとしても。


 勇馬は熱く冷えた頭でそう結論付けた。


「アイリス、シェーラ。少しの間、そいつを抑えておいてくれ」


 底冷えのするような声で勇馬が指示を出した。


 ケローネの状態に動転して頭に血が上っていたシェーラも勇馬の声に押されて我に返った。


 勇馬はマジックペンを手に持つと、腰に下げていたショートソードに『強度10倍、重量軽減90%、魔物殺し』と、自身の身体には『物理攻撃力=物理防御力=魔法防御力=素早さ10倍』と手早く書き込んだ。


「さて、覚悟はいいかな?」


 勇馬は誰に言うでもなくそう呟くと、2人が足止めしていたシルバーウルフとの間を一瞬で詰めて後ろに回り込んだ。


 そして上段からショートソードを叩きつけてあっと言う間にシルバーウルフの首を叩き落とした。

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