4 功罪
「今回のオークション出品物はやけに多いな」
ダンジョン都市サラヴィでは1か月に1度の頻度でオークションが開かれる。
目玉となる下層エリアから取得される出品物については大きな変動はみられなかったがいわゆる上層及び中層エリアから取得される出品物、その中でもフロアマスターを倒したときに得られるドロップアイテムがいつもより多く出品されている。
レアドロップと呼ばれるアイテムも同様であり、今回のオークションにおいて目玉商品となりそうだ。
「上層から中層エリアでの攻略が進んだそうです」
代官クライスの言葉に秘書の女性はよどみなく答えた。この質問はあるだろうと予めその理由を調べていたのだ。
「何か理由があるのか?」
「最近、ダンジョン内で『移動工房』での商売を始めた者がおります。その店の影響かと。以前お会いになられた上級付与師であるユーマ殿が店主をしている店です」
その名前を耳にしてクライスは一瞬ぴくっと表情を動かした。
勇馬は予め付与魔法ギルドとサラヴィの街にはそれぞれ必要な届け出をしている。
ダンジョンの中での商売をするのに街の事前許可は必要ではなく届け出をしたときにも特に何かを言われることはなかった。
街としてもきちんと税金を納めるかどうかが問題でありいつまで続くかわからない新しい店にそこまで注意を払ってはいない。勿論全ての情報は一応代官に報告はされてはいるのだが多忙な代官がいちいちそんな場末の店ができたことまで確認ができているわけではない。
「なるほど、彼の店か。ということは付与魔法工房なのだろう。元々付与師は足りなかったが彼のおかげでかなり冒険者の需要に応えることができた。その影響ということか」
「いえ、その移動工房ですが付与魔法だけでなく補助魔法もかけてもらえるようです。元々実力の低かったパーティーも補助魔法による底上げで階層を進むことができたようです」
階層を進むということはフロアマスターを倒すということである。
フロアマスターを倒すパーティーが増えるということはフロアマスターがドロップするアイテムが増え、確率的にレアドロップも増えるのは道理である。
「ダンジョンの中で補助魔法を商品にしたのか? これは思いつかなかったな」
元々補助魔法を専門とする魔法使いは少ない。
そもそも補助魔法が使えるとしても1、2種類がいいところでありその程度もまちまちである。何よりも補助魔法とはいえ商売にできるほどの回数を短時間のうちに何度も使える者は少ないだろう。
(これは何が何でもこの街に残ってもらいたいものだな)
クライスはそう思いながら秘書から次の報告を聞くのだった。
――ダンジョンの最深部
「何ともやっかいな奴が現れたな。このままいけばダンジョン内のパワーバランスが大きく狂ってしまうぞ」
未だどの冒険者の前にも現れたことのない人外は溜息交じりにそう溜息をついた。
その『やっかい者』はまだ浅い階層のあたりをうろうろしておりダンジョン攻略の最前線への影響は今のところない。
しかしそれは時間の問題であることは火を見るより明らかだった。
「仕方ないか」
人外はそう呟くとめんどくさそうに再び溜息をついた。
次話の投稿は1週間後の予定です。
2話連続更新しますのでそのために期間をいただきます。
次話がシリアス気味かつちょっと内容が内容なので間を空けないための対応となります。
本作は「R15」「残酷な描写あり」タグ作品ではありますが「ほのぼの」「ハッピーエンド」タグ作品でもあります。




