表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/226

2 バフ屋

 勇馬がダンジョンで移動工房を始めて2週間。


 10階層のボス部屋の前には勇馬の姿があった。


「バフ~、バフ~、バフはいかがですか~。武具への付与もやってますよ~。いかがですか~」


「おーい、バフ屋さん。物理防御中上昇をパーティー分やってくれ」


 勇馬が武具への付与だけでなく補助魔法を使って有料でバフを掛けてくれるということは一部の冒険者の間では知られるようになっていた。


 魔法使いを抱えるパーティーは数多くあるとはいえ魔法使いは皆が皆補助魔法を使えるわけではないし、使えたとしても特定の能力について限定的に上昇させることができる程度である。


 しかも攻撃魔法や回復魔法用に魔力を温存しておきたいという事情からここぞというときには勇馬の補助魔法に声が掛かるのだ。


 そんな勇馬の移動工房は親しみを込めて『バフ屋』と呼ばれるようになっていた。


「まいど! 他は大丈夫ですか? そちらの弓使いさん、弓への付与で命中率上昇の付与もできますよ」


「……お願いするわ」


「まいど! 倍率はいかがされますか?」






 商いが終わり勇馬はボス部屋に入っていく冒険者たちを笑顔で見送った。


「いや~、みんなには是非突破してもらいたいな~」


 ダンジョンでは階層ごとにフロアマスター、いわゆるボスが存在する。


 そして5階層ごと、つまり5の倍数の階層のフロアマスターはその中でもひときわ強いとされている。この5階層のボスはまさに初心者冒険者の卒業試験と言われるほどのものであり、5階層突破はパーティーとしてEランクからの卒業との評価をするほどである。


 勇馬は、朝は朝でダンジョンの1階層で付与をメインにした商売をし、その後はパーティーでの攻略に随伴しながらときどき会う冒険者から仕事の依頼を受けることも出てきた。


 そして勇馬が稼げる場所としているのが各階層のボス部屋の前である。


 特に5階層や10階層といった5の倍数階層では受注率・売上いずれも高い。


 一方、冒険者パーティーとしての勇馬たちは元々セフィリアが高ランクの実力者であることに加えて、勇馬の補助魔法のサポートもあり危なげなく15階層まで攻略を進めていた。


 なお、最近は補助魔法に頼り過ぎるとそれがないときに戦闘に支障が出かねないということで基本的には使わないということになっている。


 また、勇馬たちは毎日夕方ごろには必ずパーティーハウスに戻るようにしている。


 時間を惜しんで無理にダンジョン攻略を続けるよりも、適度に休息はとりつつ無理せず続けた方が長い目で見ると返っていいのではないかと思ったのだ。


 ただ、どのパーティーも勇馬たちのように毎日ダンジョンから戻ることができるわけではない。


 ダンジョンの内部から入口に戻るためには通常、ダンジョンの中をそのまま戻らなければならない。入口からダンジョンの奥に行くことは転送石で簡単に進むことができるのに戻ることには使えない。これはダンジョンの不思議の1つである。もっとも簡単に戻る方法が一応は存在している。それが帰還魔法という魔法であるのだが使える者が限られることからそもそもあまり知られていない魔法である。


 そしてその魔法が使える者が勇馬の近く、というよりもパーティーのメンバーの中にいた。



「わたくしは毎日宿に戻って英気を養いながら攻略していましたの」


 セフィリアがいくら凄腕の冒険者であるとはいってもダンジョンを1人で攻略しようと思えば並大抵のことではない。それを可能としたのが帰還魔法と転送石によって毎日少しずつ攻略を進めることができたという妙にあった。


「何か他の方に申し訳ない気がします」


「それも含めて実力だからね~」


 この日もダンジョンでのお勤めを終えてパーティーハウスに戻ったケローネとシェーラがリビングで話をしている。


「さて、明日はどうしようかな」


 2人の会話を聞きながら勇馬は明日の予定を考える。


 いつものルーティーンは朝一番で1階層で付与魔法の売り込みをして一段落したところで奥の階層に移動する。


 その後は攻略を主にする日と商売を主にする日という感じでやっている。勿論、最初は商売をするつもりでも思いの他冒険者おきゃくがいないときには予定を変更することもある。


「明日は12階層などいかがでしょうか?」


 風呂から出てきたばかりなのか顔を上気させてピンク色の髪の毛をしっとりとさせたセフィリアがそう声を掛けてきた。


「そのこころは?」


「先日、10階層のボス部屋で多くの冒険者にバフを買っていただきました。その方たちがその階層に到着したかもしくは既に到着されて苦労されているころではないかと」


「セフィリアは商売上手だな。シスターを辞めたのは正解だったのかもしれないな」


「いえ、神の道にも先立つものは必要ですから。それにわたくしは聖教会という組織のシスターを辞めただけであって神に仕えるシスターそのものを辞めたつもりはございませんわ」


 セフィリアはそう言って勇馬に熱っぽく視線を送った。


「ああ、そう言えばアイリスはどこにいるのかな?」


 セフィリアの気持ちを知ってか知らずか勇馬は唐突に話題を変えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ