34 工房
勇馬はギルド1階の個室で事務長を務めるケインから工房についての説明を受けた。
その要点は次の内容だった。
工房は中級付与師以上が開業できる。その場合、毎月会費として1万ゴルドを支払わないといけない。
また、個人的に客から仕事の依頼を受けることができるがギルドが受け付けている業務と同じ内容の業務についてはギルドが受注する場合と全く同じ受注金額にしなければならない。
つまり、ギルドとの価格競争は許さないということだ。
ギルドのメニューにない内容の仕事を受ける場合にはメニューにあるもっとも近いメニューと受注金額から適切な金額を設定しなければならない。
そして受注した金額の一定割合を税金とギルドへの手数料として支払わなければならない。ごまかしを防ぐために付与魔法ギルドの監査を受けなければならない。
「いつもギルドで作業をしてもらう報酬は既に税金やギルドの手数料がひかれていたんですね」
「はい。工房の場合は受注についてギルドを通さないため、ギルドの手数料は割安となっていますので手取りは増えます。まあ、その分お客さんに直接対応しないといけないという手間はかかりますが」
それにしてもメニューと受注金額がギルドに定めるものと同じにしなければならないということは単純な価格競争は禁止されているということである。元々ギルドはギルド構成員全体の利益を守るための団体であり、そもそも独占禁止法という法律がないこの異世界では仕方のないことだろう。
取り敢えず工房を開設する方向で勇馬は検討することにして自宅に戻ってみんなと話をしてみることにした。
ちなみに工房を開設してもギルドから仕事を回してもらうことはできるし、そもそもそうでなければギルドも業務をさばくことができない。
勇馬はギルドからの仕事についてはこれまでどおりギルドの作業室を使わせてもらうことにして、今後ギルドで作業をする日についてはおいおい詰めていくことになった。
ただ、この日もせっかく来たのだから都合30個の武具に作業していつもよりも少ない報酬をもらって早めに自宅へと戻った。
「主様、おかえりなさいませ。今日はお早いお帰りですね。何かありましたか?」
勇馬が自宅へ戻るとちょうど玄関ホールの掃除をしていたアイリスがメイド服姿で勇馬を出迎えた。
「あー、ちょっとみんなに相談したいことがあるんだけど、みんないるかな?」
もうすぐ昼食の時間だということで昼食を食べてから話をすることになった。
「ギルドから仕事の割り当てが減ることになったんだ。俺としてはしっかり稼ぎたいと思っててそれが不服だったら工房を開設したらどうかって言われてね。それで、その方向で考えているんだけどみんなはどう思うかな、って」
勇馬は経緯を簡単に説明してそう意見を求めた。
「工房というからにはどこかの建物を借りるのですか?」
「いや、このパーティーハウスも場所は悪くないから問題なければここでもできると思う」
「一番ネックになるのはやはり知名度でしょうか? ユーマ様はこの街の方ではありませんし。地縁、血縁もないこの場所で一からお客をつかむというのはどうでしょうか?」
「そうだね。ユーマさんの話だと、ギルドは他の国の人たちからの受注も再開するんだよね? これまでユーマさんが臨時でやっていた他の国の人たちを相手に仕事をすることも難しくなると思うけど」
出てくる意見はネガティブなものばかりであった。
勿論、勇馬としても自分で考えてみてもどうだろうかという思いがあったからこそ意見を求めたのだが勇馬の耳目を集めるような意見が出ることはなかった。
取り敢えず勇馬ももう一度考えてみるということで最初の会議はお開きとなった。




